5月14日、中国がかつてのシルクロードを軸に主導する巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマに、各国首脳が協議する初の国際協力フォーラムを開いた(写真/ SPUTNIK /時事通信フォト)
トランプ大統領の公約通り、アメリカが脱退し参加国が11か国になったTPP(環太平洋経済連携協定)。一方、TPPの対立軸として中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、アジア以外からもG7の英、独、仏、伊が加わり、参加国は5月末現在で77か国・地域に達した。“米抜き”のTPP11対AIIBの行く末はどうなるのか。そして、日本にはどのような影響があるのか――。
双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦氏が解説する。
「公正なガバナンスや出資の透明性の懸念から、中国が思いのままに運営するのでは、と日米が参加を見送ったAIIBですが、この2年間、なかなか丁寧にやってきている。5月の一帯一路首脳会議で、習近平主席はこの地域のインフラ整備のため、現状の4兆6000億円に、さらに1兆6000億円を上積みすると表明したが、資金の出所はAIIBではなく、中国のシルクロード基金。当初、懸念されていたような、AIIBが不良債権の山を築く可能性は低いでしょう。ただ、中国国内では、『対外援助の多くが焦げ付いている』という批判もあり、一時は一帯一路がトーンダウンした経緯があります。また、参加国が増えたことで、中国はAIIBを好き勝手にはできなくなってきている。日米が抱いた懸念材料は、解消されつつあるのです」
一方、TPP11は、5月にベトナムで閣僚会議を開催。署名11か国は、合意内容の大幅見直しを避けることを申し合わせ、11月のAPEC首脳会議をゴールにTPPの発効を目指す。
「TPP署名11か国のなかでも、豪州やニュージーランドは、“米抜き”TPPでは、牛肉や乳製品など米国と競合する分野で、輸出増が見込めるので当然、乗り気です。逆に、マレーシアやベトナムは、輸出攻勢を目論んでいた巨大な米国市場が消えたばかりか、TPPで合意した国有企業改革や規制緩和など、痛みを伴う改革をしなければならず消極的……脱落する国が出てくるかもしれません。とはいえ、将来、米国は2国間FTA(自由貿易協定)を迫ってくるのは必至。各国が先手を打ってTPPを発効すれば、『TPP以上の譲歩はできません』と事前に米国に線引きを示すことができる。幸いなことに、トランプのアメリカは政府高官人事が進まない上、TPPよりもNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しが優先される。この隙に、TPPの早期発効に漕ぎ着けたいところです」
ただ、“米抜き”TPPが発効しても、日本はAIIBを主導する中国とライバル関係にあることに変わりはない。
「米国が反グローバルに舵を切った今、アジアで日中が対立しても意味はない。インフラ投資にしても、『高品質』の日本と『安い、早い、大きい』の中国は相互補完関係にある。どちらが正しいという問題ではなく、日中がアジアの自由貿易で協力すればいい。アジアは反グローバルではないし、貿易自由化を深める余地もあり、投資もまだまだ足りないのですから」
<取材・文/HBO取材班>