ビルの一室で野菜を栽培!? ビル管理の鹿島建物が始めたパイロット事業が面白い

レンタル水耕菜園「たなばたけ すくすく」 オフィス街の一角にある店舗の中をふと覗くと、棚に整然と置かれたプランターの中にいくつもの植物が……。  鹿島建設の子会社であり、ビルメンテナンス事業を行う「鹿島建物総合管理(株)」が興味深いパイロット事業を始めている。その名も、水耕菜園「たなばたけ すくすく」。  同社が持つ建物管理業務のノウハウを活かし、都市部のビル内で野菜の水耕栽培スペースをレンタルする事業だ。  7月2日の店舗開業以降、特にチラシを撒いたりプロモーションを行ったりもしなかったものの、街行く人の目に止まり、密かに人気を博している。 「再開発などにより都市部に新しいビルが増える一方で、古いビルはテナント退出による空室や貸し坪単価の下落などさまざまな問題を抱えています。そんな中、ビルオーナー様などに空きテナントやフロアスペースの有効活用事例としてご提案できないかと2年ほど前に社内でプロジェクトが立ち上がり、実店舗をこの7月、浜松町にオープンしました。」と語るのは、同社クリエイティブライフ事業部部長の和多田重浩氏。
レンタル水耕菜園「たなばたけ すくすく」

鹿島建物総合管理クリエイティブライフ事業部部長・和多田重浩氏

 白を基調とした店内にはスチール製のラック(棚)が並び、各棚の上にはベッドと呼ばれる黒いプランターが整然と配置されている。空調や光が管理され、どことなくサイバーな雰囲気があるが、中ですくすく育つ野菜の緑色が目に安らぎを与えてくれる。 「お客様は、20代から40代くらいまでと幅広い層で、近隣にお勤めのサラリーマン・OLの方が中心です。特にプロモーションなどはしていないので、店内を覗いて興味を抱いた方が話を聞きに来てお申込みいただくことがほとんどです。たいていはみなさん、もう少し高めのレンタル料金だと思っておられるんですが、思いのほか安いので驚かれることもあります」  1ベッドの料金は1か月1500円となかなかお手軽な料金。もちろん、栽培し収穫した野菜は持ち帰って食べることができる。 「当初、料金設定ももう少し高めに考えていたんですが、お借り頂き易いように1か月1500円という料金にしました。そのため、一般のお客様にはスーツでも気軽にできる水耕栽培として、楽しんでご利用頂いております」  栽培できる野菜はコリアンダーなどのハーブ類からサンチュ、ミニトマト、ラディッシュなどさまざまだ。空調や光など完璧に管理された状態で行われる水耕栽培は、スーツ姿で会社終わりに立ち寄っても種の植え付けや剪定など問題なくできる。これらの作業が面倒な人はスタッフの人がやってくれるので、棚だけ借りて収穫時に来店、ということも可能だ。  実際に、同店で棚を借りて栽培している人に話を聞いてみた。 「スタッフの方におまかせでもできるし、自分でやるにしても作業自体は種の植え付けと大きなプランター(ベッド)への植え替えや剪定くらいで実際の作業は結構少ないです。でもこうした作業は自分でやったほうが楽しいので、昼休みとかに来てやってますね。日々、成長していく様子も外から見えるので、店の前を通るのも楽しいです。それに、意外とちゃんとした量が収穫できるので、食べる楽しみもあります。完全無農薬ですし、自分で育てたとなると、なおさら美味しいですね」  一方、ビルオーナー様や各種法人も視察に訪れている。 「今後はこの事業をよりご活用頂き易いようにブラッシュアップしていく必要がありますが、空きスペースの有効活用によって『ビル内に“癒しの場”を提供したい』と、運営と合わせて導入を検討されているオーナー様もおられるなど、さまざまな事業角度から興味を持って頂いております。また、企業がリフレッシュルームにオアシスとして設置すれば、従業員間のコミュニケーション活性化の効果も見込めるのではないでしょうか」  同社のパイロット事業として始めた本事業は、現段階で言えば、いわば「助走段階」だという。 「現段階では、事業の可能性を色々と模索している段階ですが、いずれは店舗をお客様同士のサロン的な交流の場にしたり、できれば多店舗化も図りたいと思っています。」  ビル管理のプロフェッショナルが展開する意外な事業。週末農業などへの関心が高まる中で、今後より面白い方向に展開していく可能性を秘めているかもしれない。 <取材・文/HBO取材班 撮影/山川修一> レンタル水耕菜園「たなばたけ すくすく」 住所:港区浜松町2-3-24 若松ビル1F ※JR浜松町駅・金杉橋口より徒歩3分(日曜・月曜は定休日) TEL:03(6809)1507