「京大ポポロ」の衝撃 公安は本当にLINEを使っているのか――江藤貴紀「ニュースの事情」

 11月4日、京都大学構内に入った京都府警所属の公安警察員が学生らに取り押さえられるという失態を犯して、新聞各紙で取り上げられた。例えばだが11月8日の産経新聞 は「京大ポポロ事件」という(※1952年に東京大学で起きた「東大ポポロ事件」を引いてネット上で飛び交っていた)名称を付けてこの事件を報じたが(http://www.sankei.com/west/news/141108/wst1411080056-n3.html)、筆者が驚いたのは警官らが連絡にアプリケーションソフトLINEを使っていたという学生側の出した情報だった。  LINEと言えば、硬派な総合情報誌として知られる『FACTA』7月号 (ファクタ出版)で、韓国の諜報機関、国家情報院(かつてのKCIA)が通話とメッセージを抜いていると報じられたソフトだ(http://facta.co.jp/article/201407039.html)。また、LINEはインストールすると端末に過度と思えるほど広範なアクセス権限を求めることから、以前にもその挙動の不自然さが指摘されてきた。  だが、公安警察は、都道府県警28万人の大組織をバックに強制捜査の権限を併せ持ち、 日本最強の諜報機関と言われていた組織だ。また、秘密主義的な性格も有名だった公安が、以上のように海外諜報機関が情報収集に利用しているという報道があるアプリを使って任務上の連絡を取り合っていたとはにわかには筆者に信じられなかった。  果たして本当に公安はLINEを使っていたのか、考えてみたい。  今のところ日本の政府機関などにおけるLINEへの対応例を見ると、あながち公安がLINEを使っていたという情報も否定しきれないのが現実だ(以下、有名な事例が続いて人によっては退屈するかもしれないが確認の意味でお付き合い願いたい)。  例えばだが、首相官邸は一昨年、2012年の10月からLINEのアカウントを開設したし 陸上自衛隊もLINEの公式アカウントを持っている。 そもそも警察でも静岡県警で、LINEのグループに入らないことを理由に組織内でのいじめが起きたと今年の1月23日朝日新聞が報じている(http://www.asahi.com/articles/ASG1R5Q4HG1RUTPB00R.html) 。政府そのものではないものの公共放送のNHKもLINEについては好意的に取り上げており、LINE乗っ取りについても「友人どうし、安心できるはずの関係を逆手にとった手口。便利なツールに潜む危険を知った上で利用者が対策をとる必要性を痛感させられました。」という報じ方をしていた 。  このように日本の公的(あるいはそれに準じる)機関が普通にLINEを使っている状況から見ると、公安が「京大ポポロ」事件でLINEを使っていた可能性も排除しきれない。とするといわゆる「防諜」の体制に心配が出てくるため、公安を含めて警察が実際にLINEの使用を制限していたのかどうかを筆者は確認したくなる。  インタビューをしてもなかなか口を割ってくれないだろうが、ここで「情報公開請求」という方法があるのだ。新聞などでは、よく市民オンブズマンなどが知事や地方議員の出費について調査するために使うというイメージだろう(何だかそのせいで「情報公開請求」=「プロ市民」みたいな印象ができあがっている節がある)。だが、この制度は「原則として」政府機関の持つあらゆる文書を入手できるため、別に市民運動の専売特許ではない。  今回の事例に即して言うと、いま筆者は「京都府警において、アプリケーションソフトLINEについて(1)職員における公務での使用を制限している文書および(2)公務外での職員の使用を制限している文書」を情報公開請求している。  そうした文書が存在しない場合は「そういう文書はないから出せない」という回答が帰ってくるのが原則なので、少なくとも組織としてLINEの使用を制限する体制があったかどうかはこれでチェックできる。情報は今の時代、情報機関の専売特許ではないのだ。  果たして京都府警の回答やいかに!? <文/江藤貴紀(エコーニュース:http://echo-news.net/【江藤貴紀】 情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。