東大首席、山口真由氏が見た「トランプ大統領」――アメリカ社会の「建前」と「本音」
泡沫候補からめきめきと力をつけてついに世界一の権力者となったドナルド・トランプ大統領。それは「トランプ現象」なる言葉を生み出し、アメリカ国内外にさまざまな波紋を広げている。
果たしてなぜトランプ大統領が生まれたのか? トランプが力を広げていく真っ只中の2016年、渦中のアメリカ・ハーバードに留学していた元財務官僚にして弁護士としても活動した山口真由氏に寄稿していただいた。
私は昨年、アメリカに留学してハーバード・ロースクールで学ぶ機会を得た。折しも、2016年は大統領選の年だった。
ハーバードで学んでいくうちに、私が気づいたアメリカを知るためのキーワード——それは「二極対立」だ。
2016年の大統領選のニュースは、日本でもずいぶん報道された。だから、コンサバの共和党からドナルド・トランプが立候補し、リベラルの民主党から立候補したヒラリー・クリントンと一騎打ちしたことを、ご存知の方も多いだろう。
日本ならば、自民党、民進党の他、公明党や共産党など様々な政党がある。ところが、アメリカの場合、実質的に政党として機能しているのは、共和党と民主党のたった2つだけ。
「ワシントンを牛耳ってきたエリートたちには、アメリカの格差を拡大させてしまった責任がある。そう考えると、その『エスタブリッシュメント層』の代表格ともいえるヒラリーは好きになれない。そうはいっても、アメリカは移民を受けれいてきた国なのだから、移民を口汚く攻撃するトランプにも、完全に賛成することはできない……」
現地のアメリカ人たちは、ヒラリーもトランプもイマイチだと思って、相当悩んでいた。トランプを手放しで称賛するアメリカ人なんて、実は、ほとんどいなかったのだ。ところが、何人もの候補者の中から自分の考えに近い人を選ぶ日本のシステムと異なり、アメリカは「共和党」のトランプか、「民主党」のヒラリーの二択しかない。
ワシントンのエスタブリッシュメント層が許せなくて、ヒラリーが嫌いだと思えば、トランプが好きじゃなくても、もはやトランプに投票するしか道はないのだ。
この「右」か「左」か2つの選択肢しかないのが、アメリカの二極対立社会の特色だ。
たとえば、宗教について、共和党はキリスト教に熱心で、民主党は宗教に冷淡である。人種については、共和党は本音では白人が一番偉いと思っているのだろうとされ、民主党は多様な人種による「ダイバーシティ」の価値を信じている。LGBT問題について、キリスト教を信奉する共和党は、その教えに反する同性婚には反対だし、ダイバーシティの観点から様々な「愛の形」を支持する民主党は、同性婚に賛成している。
「宗教は大事だと思うけど、LGBTの人たちにそんなに反対するつもりもないし、人種の違う人たちとも仲良くしたいし……」
日本にありがちな曖昧なポジション取りは、アメリカでは許されない。「あなたは民主党支持?えっ、じゃあ、ダイバーシティには絶対賛成よね?どんな小さな人種差別も絶対に許せないはずよね?」と決めつけられてしまう。2つの政党しかなくて、その中間という立ち位置が許されないアメリカでは、共和党も民主党も、極端な方向に走りやすい。これが二極対立社会の欠点だった。
アメリカという二極対立社会
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