苦戦が続くすき家に「客がやさしくなった」

 昨年、苦戦を強いられていたチェーンの牛丼店がここに来て反転の動きを見せている。2014年10月の売上高は前年同月比で見ると、「吉野家」(+2.9%)、「松屋」(+2.0%)、「すき家」(+3.3%)。9月に続き大手3社そろって、売上増(前年同月比)と好調なように見える。  だがこの数字を額面通り受け取るわけにはいかない。それが、現在の牛丼界が置かれた現状だ。象徴的なのが「すき家」を運営するゼンショーホールディングス。13日に発表された2014年4―9月期連結決算は最終損益が22億円の赤字となった。とりわけ「すき家」は2011年の9月から2014年1月まで、29か月連続で売上高が前年割れという”非常事態”。飲食業界全体の問題として波及してしまった労働問題などもある。前年比で多少回復した程度ではとても追いつかない。  ちなみにゼンショーは減益の主な要因を米国牛の値上げだとしているが、現場の意見はやや異なる。「すき家」のアルバイト店員は、「僕の勤務する店舗では、騒動後も人手は足りず、一人勤務の”ワンオペ”も相変わらず。原価どうこうではなく、単純に売上が落ち込んでいました」と断言した。  確かにゼンショーの説明する通り、今年の米国牛の価格は右肩上がりで、「北米産冷凍ショートプレートの卸売価格は10月に1キログラム当たり1081円と、前年同月の555円から上昇した。牛海綿状脳症(BSE)の影響で政府が2003年に米国産牛肉の輸入を禁止した後の04年以来の高値」(ブルームバーグ)と報道されている。  北米産冷凍ショートプレートは「吉野家」も使っているが、こちらは10月から復活した「牛すき鍋膳」などの価格を見なおした。「松屋」も7月に高単価の「プレミアム牛めし」を投入。細やかな価格調整で乗り切ろうという思惑が見て取れる。「すき家」もこの10月から深夜など複数の従業員が配置できないときには休業することを発表した。深夜休業の店舗は実は全体の6割にものぼるという。前出のすき家アルバイトスタッフはこう語る。 「実は”ブラック”騒動以降、ひとついいことがあったんです。お客さんがやさしくなりました(笑)。以前はワンオペでも待たせると、容赦なく催促されましたけど、騒動以降は辛抱してくれるお客さんが増えた印象があります」  企業には厳しい目を向けるユーザーも、過酷な労働環境に置かれた従業員相手となると同情を禁じ得ないということか。 「最近、確かにワンオペはなくなりました。でも複数の店員がいると、お客さんの態度が厳しくなるんです……」  過酷な労働環境が改善されたからといって、従業員にとってすべてがプラスにはたらくわけではない。現場はいつもやるせない。<取材・文/高田純造>