11月21日にトランプ次期大統領は動画を公開。大統領就任当日に「TPPからの離脱を指示する」と表明した
トランプ新政権の動向に世界の注目が集まっています。
その政策の全貌は明らかになっていませんが、「最初の2年間で2500万人の雇用創出」「35%から15%への法人減税」「1兆ドルのインフラ投資」など、“アメリカ国内”に絞った経済政策だけは具体性を帯びています。これに真っ先に反応したのが、債券市場でした。大型財政出動に伴う大量の国債発行で長期金利が上昇するのを見越して、米国債売りが加速。10年物の米国債利回りは1.6%から3週間で2.4%にまで急騰しました。金利上昇を受けてドル買いが加速し、円相場は大統領選当日に101円台まで下げたのち、115円近くまで14円も上昇しました。一方、NY市場では景気対策を好感して、インフラ関連銘柄が上昇。NYダウは史上初の1万9000ドルを大きく上抜きました。本来であれば、金利上昇は株の売り材料となりますが、トランプ効果で株・ドル・金利とすべてが上昇してしまったわけです。
ただし、トランプ氏の経済政策は、大きな矛盾をはらんでいます。まず、アメリカはオバマ政権下で失業率が4%台に低下しました。日本と算出方法が異なるため、これは事実上の“完全雇用”の状態といえます。そのなかで大規模な経済対策を行えば、人手不足が深刻化するのは必至。そのため、賃金インフレを招く可能性が高いです。
アメリカの’95~’04年の実質経済成長率は平均3.4%ありましたが、直近の’16年1~9月期は1.5%しかありません。この成長鈍化の背景には労働生産性の低下があります。’95~’04年の労働生産性の伸びは前年比平均2.8%でしたが、’16年には0%に落ち込んでいるのです。そのような状況で賃金インフレを起こせば、さらに労働生産性は低下します。企業収益の低下は減税でカバーしようと考えているのでしょうが、結果、財政赤字が雪だるま式に膨れ上がっていくことは間違いありません。
ブッシュ政権時代に10兆ドルにまで膨らんだ連邦債務は、オバマ政権で20兆ドルに拡大しています。トランプ氏は大型財政出動と大規模減税に加え、10年間で支出が1兆ドルを超すと言われるオバマケアも存続させるようなので、さらに連邦債務が拡大するのは避けられません。確かに、株式や不動産などの資産価格は一時的に上昇するでしょう。しかし、これがインフレの加速と長期金利のさらなる上昇を招くのも間違いありません。
当然のことながら、インフレ圧力を受けてFRBは利上げに追い込まれます。’17年は少なくとも2回の利上げが実施されるという見方が広まっています。さらなるドル高で、発展途上国の経済が混乱するのも必至です。世界的な経済の停滞は巡り巡ってアメリカ経済の足を引っ張ることになるのです。つまり、現状で明らかになっているトランプ政策が実行に移されれば、ごく短期的には財政出動効果で高成長を実現できても、中長期的には景気の悪化を招く可能性が濃厚なのです。
【闇株新聞】
’10年に創刊。大手証券でトレーディングや私募ファイナンスの斡旋、企業再生などに携わった後、独立。証券マン時代の経験を生かして記事を執筆し、金融関係者などのプロから注目を集めることに。現在、新著を執筆中