新たに2路線開業予定の新幹線。その裏にある「負」の側面とは

新幹線50周年を祝う特設サイト

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 先月10月は、東海道新幹線が開業50年の節目を迎え、さまざまなイベントが行われるなど盛り上がりを見せた。来年の春には北陸新幹線長野~金沢間、さらに再来年の春には北海道新幹線新青森~新函館北斗の開業を控えており、まだまだ新幹線にまつわる盛り上がりは続きそうだ。北陸新幹線が開業すれば東京から北陸方面へのアクセスが格段に向上し、北海道新幹線開業では東京から乗り換えなしで函館に行くことができる。国内の旅行や出張がますます便利になることは間違いない。  だが、新幹線開業は必ずしもプラスの面ばかりではない。鉄道専門誌の編集者は、「地元で暮らす人にとってはマイナスの側面のほうが大きいかもしれない」と話す。  具体的にはどのようなデメリットが生じるのか。 「現在、新幹線が新たに開業すると、並行している在来線はJRの運営から離れて第三セクター化されることになっています。これはJRの経営負担を軽くするため。つまり、逆に言えば収益の望めない赤字路線を地元自治体に押し付けるということでもある。これまでも東北本線の一部がIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道に、鹿児島本線の一部が肥薩おれんじ鉄道に、信越本線の一部がしなの鉄道に移管されています。そのいずれもが極めて厳しい経営を強いられていますし、運賃の値上げなどで利用者への負担も増加しています」
石川県の新幹線特設サイト

石川県のサイトでは新幹線特設サイトを作っているが地元民の顔は曇る……

 今回の北陸・北海道新幹線の開業でも、北陸本線や江差線の第三セクター移管が決まっている。前出の既存第三セクターの中には、ぎりぎりの経営状況から脱して黒字化に成功した路線もある。しかし、それはあくまでも地元自治体などからの資金援助が前提だ。いずれも鉄道貨物輸送には欠かせない路線なので廃線にすることもできず、今後地方の過疎化がさらに進めば自治体にとって大きな負担になりかねない。新幹線開業の裏には、地元住民にとっては決して歓迎できない現実があったのだ。  これは、新たに新幹線がやってくる北陸でも話題になっている。新潟から富山に単身赴任しているという国家公務員のA氏は言う。 「今は金沢~新潟に特急北越が1日5往復走っています。でも、新幹線が通ると北越は廃止。新幹線で上越妙高まで行って乗り換えるしかありません。お金も時間もかかるし乗り換えの手間もある。今までのように頻繁に家に帰ることはできませんね」  富山県の高岡市から金沢市内に通勤しているB氏も「特急がほとんどなくなるので各駅停車でいくしかない」と溜息をつく。 「今は高岡から金沢まで約20分。各駅停車だと40分はかかります。本数も少ないですし……。新幹線駅もできますが、さすがに高いしすべての列車が止まるわけじゃありませんからね。僕たち北陸の人間にとっては新幹線が通ってもなにひとつ便利になりません」  さらに深刻なのは、特急はくたかを運行する北越急行ほくほく線の沿線住民。特急はくたかは越後湯沢~金沢を結び、これまで東京と北陸のアクセスには欠かせない路線だった。しかし、新幹線開業に伴って廃止が決まっている。 「何でも北越急行って利益の9割がはくたかだったという話。はくたかが無くなることで、北越急行そのものがなくなっちゃうんじゃないかと心配しているんです。もしそうなったら、子どもたちの通学やお年寄りの通院はどうすればいいのでしょうか……」  実は、北越急行では130億円もの積立金を持っている。開業以来の黒字経営の中で、はくたか廃止に備えてきたというわけだ。そのため、当面は経営不安に陥ることはないという。とは言え積立金も限りはある。「積立金以外にも利用者を増やすための施策を考えていく」(北越急行)とは言うが、積立金が底をつく20年後には存廃が問われる事態になるだろう。  一方、鉄道ファンからも新幹線開業に伴うデメリットを指摘する声が聞こえてくる。この道20年の撮り鉄C氏が言う。 「北海道新幹線開通の影響で、JR西日本の運行する豪華寝台特急トワイライト・エクスプレスが廃止されます。まだ発表はされていませんが、JR東日本の北斗星(ブルートレイン)・カシオペアも廃止になるでしょう。どれも鉄道ファンならば一度は乗っておきたい寝台列車だけに、寂しい思いでいっぱいです」  これらの寝台特急が廃止されるのは、新幹線の走る青函トンネル内の規格がこれまでの在来線仕様ではなく新幹線仕様になるためだ。 「JR貨物では在来線線路も新幹線線路も走ることのできる電気機関車EH800形を開発しましたが、これはこの区間が貨物列車にとってドル箱路線だからできたこと。寝台列車だけのためにJR西日本や東日本が車両をあらたに作ることは難しい。北海道新幹線の誕生で北海道から九州までが新幹線で結ばれることになりますが、それは寝台特急の終焉も意味するのです」(前出・鉄道専門誌編集者)  津軽海峡を新幹線が渡ると同時にブルートレインが姿を消す。鉄道ファンならずとも寂しさを感じる話だ。また、今では寝台列車がほとんどなくなった背景にも、新幹線による高速化があることは間違いない。  いずれにしても、新幹線開業は華々しい話題として取り上げられることが多い。しかし、こうしたあまり知られていない負の側面があることも知っておく必要があるだろう。 <取材・文/境正雄・鉄道ジャーナリスト>