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【石原壮一郎の名言に訊け】~リンカーン
Q:オーナー企業は、これだから嫌なんだ。どこの部でもお荷物で、しばらく「何にも専務」をやっていた創業社長のジュニアが、いきなり社長を継ぐことになった。今の社長が体を壊して、早めの引退を決心したそうだ。このジュニア、ボンクラだけならまだいいけど、性格も最悪で人望がまったくない。一代でこの会社を築いて、社員からも取引先からも尊敬されている今の社長と大違いだ。社員のあいだでは「もう会社はおしまいだ」という悲鳴が上がっている。早めに転職を考えたほうがいいだろうか。(愛知県・29歳・小売り)
A:ありそうな話ですね。創業社長は凄腕だけどジュニアはボンクラというケースも、社長の交代が決まって社員がアタフタしてしまう状態も。ジュニアがどれだけボンクラなのかはわかりませんが、さすがに会社がすぐどうこうなるわけではないでしょう。
ジュニアはジュニアでがんばってもらうとして、社員が悲観的になって悲鳴を上げていたり、さっさと逃げ出そうとしたりしていることのほうが、よっぽど心配です。状況に流されるばかりで、まったく当事者意識のない社員ばかりだとしたら、それこそ未来はありません。みんながそう思っているわけではなく、あなたやあなたの周囲だけが悲観的になっている可能性もありますが、だったらなおさら、ちょっと落ち着いてください。
恵まれた立場であるジュニアを悪く言いたくなる気持ちも、会社の上層部を辛らつに批判することで自分が偉くなった錯覚を味わいたい意図も、よくわかります。でも、そういう絵に描いたような反応をするのって、つまんなくないですか。妬みそねみやセコイ了見をベースに目先のプライドを満たしていないで、どうせならもっと欲張りましょう。
ボンクラな社長が持ち味を発揮できるように、周囲とも相談しながら接し方やおだて方を工夫したり、会社が大きく変化する中で、自分の仕事のやり方が今までどおりでいいのかどうか見直したり、何を守って何が変えられるかを模索したり……。そういうことに頭を絞ったほうがよっぽど有意義だし、よっぽど張りのある毎日を過ごせそうです。
うまくいくとは限りませんけど、転職を考えるのは「やっぱりダメか」という結論が出てからでも遅くはありません。この秋はアメリカ大統領選挙が話題を呼びましたが、それにちなんで、第16代大統領のエイブラハム・リンカーンの言葉をまとめてご紹介しましょう。
「本当に人を試したかったら権力を与えてみることだ」
「未来を予測する最良の方法は未来を創ることだ」
「たいていの人々は、自分で決心した分だけ幸せになれる」
地位が人を作ると言います。社長になることで、ジュニアは人が変わるかもしれません。ひとごとみたいに「どうなるんだろうな……」と不安をふくらませたり仲間同士で文句を言ったりしているヒマがあったら、自分に何ができるかを考えて行動に移しましょう。そして、なるべく高い志を持とうと決心することが、たくさんの幸せをつかむ必須条件です。
もちろん、ジュニアや会社に忠誠を誓う必要なんてさらさらありません。あくまでも、自分の成長や幸せのために、置かれた状況をどう利用するかという話です。状況を変えたほうがいいと判断したら、しがらみなんてさっさと断ち切りましょう。いずれにせよ、「このままじゃいけない」と思う現実に正面からぶつかろうとせず、陰で不平不満を言うことが「勇敢な闘い」だと思っているうちは、誰が社長になろうがどこの会社に行こうが同じです。
【今回の大人メソッド】
せっかくなので、ここもリンカーンの名言をもじってみました。現状に文句を言って留飲を下げたりトップを批判して悦に入ったりするのは、勇ましいようでいて結局は状況に流されていることを良しとしている受け身の姿勢です。「自分の自分による自分のための人生」を生きるために、今の状況で自分に何ができるかを考えて、あれこれもがきましょう。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(
@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『
大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『
食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『
日本人の人生相談』(ワニブックス)
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