「不利」を「有利」に変える、いたってシンプルな交渉術があった!

 長期に渡るプロジェクトで、チームの士気を維持するのは難しい。低予算にクライアントのわがまま、身勝手な上司……と、不利な条件が重なるとなおさらだ。メンバーのやる気を引き出し、まとめあげるにはどうすべきか。  今回は野村萬斎主演で映画化もされた『のぼうの城』(和田竜著/小学館文庫)から打開策を探りたい。舞台は戦国末期の武州・忍城(おしじょう)。石田三成率いる2万の大軍に対し、忍城はわずか500人。“のぼう様”(「でくのぼう」の略)と呼ばれた主人公・成田長親(ながちか)が、典型的な“多勢に無勢”をどう覆すのかが見どころとなる作品だ。

「ごめん。戦にしてしもうた」

 豊臣秀吉の命を受けた石田三成軍との全面衝突を目前に控えた忍城。集められた城下の農民たちに対し、主人公・長親は涙ながらに詫びる。侍らしからぬ言動に、周囲の武将は驚き呆れるが、領民たちは“のぼうさまのために戦おう”と一致団結する。  ストレスフルな状況に陥ると、つい“戦犯捜し”をしがちだ。だが、責任をなすりつけあう時間は当然、士気を下げる。そんな事態に陥るのを避けるのは、長親のように“謝ってしまう”という作戦だ。不思議なもので先に謝られると、責める気持ちを持続するのは難しくなる。相手の善意を信じ、頭を下げられるのも、チームリーダーの資質のうちだ。

「すべて話そう」

 忍城の城主・成田氏長(うじなが)は実は豊臣秀吉と内通していた。噂を知った領民を他の武将が脅しつける中、長親は「すべて話そう」と提案する。「洗いざらい話せばみんなわかってくれる」というのだ。  不都合な情報ほど、早めに開示するに限る。“策士、策に溺れる”ということわざではないが、ヘンに情報を隠す行為は不信感をかきたてる。いい情報も悪い情報もすべて伝えれば、メンバー自ら対策を考え始める。仲間として、危機に立ち向かう土壌をつくりあげるのにも役立つのである。

「まだ戦は終わってないじゃないか」

“本城”にあたる小田原城が攻め落とされたとき、忍城は開城を決める。長親だけが「まだ戦は終わってないじゃないか」と粘る。さらに、開城の条件を決める席で、豊臣側に理不尽な要求をされると、すかさず再戦を申し入れ、敵味方を仰天させる。だが、その結果、和睦の条件は忍城側に有利なものとなる。  仕事をしていると、やむを得ず、不利な条件を飲むこともある。しかし、常に唯々諾々と受け入れるのではなく、時には正面から戦うことも重要だ。自分のためではなく、周囲を守るための宣戦布告。その気概のある・なしは自然と周囲に伝わるものだ。  メンバー間の信頼感はチームの士気に大きな影響を与える。お互いが、ためらいなく救いの手をさしのべられるかどうか。もし、無理ならその原因を突き止め、解消するのが先決。“この人のためなら”と互いに思えるチームなら、どんな苦境も乗り越えられる。 <文/島影真奈美> ―【仕事に効く時代小説】『のぼうの城』(和田竜著/小学館文庫) <プロフィール> しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
のぼうの城

戦国エンターテインメント大作