長時間残業をしないと同僚に水を空けられそうで不安でたまりません。。。

【石原壮一郎の名言に訊け】~カンニング竹山 Q:長時間の残業が問題になっている。たしかに、ひどい目に遭っている人がいるのはわかる。だけど、自分だけ仕事をセーブしたり適当に切り上げたりして早く帰っていたら、そのあいだに同僚に置いて行かれそうで不安だ。そもそも、仕事は楽しいので残業もとくに苦にならない。やりたい人は好きなだけ残業すればいいと思うんだけど、こういう考え方は間違っているんだろうか。(東京都・26歳・編集プロダクション) A:間違っているかどうか、他人には決められません。編集プロダクションという業種だと、たくさん仕事してたくさん経験を積むことで成長できるという一面は、たしかにありそうです。「会社にうまいこと利用されているだけ」と言う人もいるかもしれませんが、たぶんそういうことでもないですよね。まあ、うまいこと利用されている可能性は、一度ぐらいは疑ってみたほうがいいかもしれませんけど。  あなたが今の環境に満足できるんだったら、とても幸せなことです。ただし、それはあなただけに当てはまる話で、別の人にとって「長時間の残業もいいもんだ」という話にはけっしてなりません。いや、あなたは残業に対する自分の考え方に疑問を抱いて相談してくれているわけなので、ほかの人に「自分と同じことをしろ」と言おうとしているのではないことは、重々わかっています。  こういう話がややこしくて炎上しやすいのは、たっぷり残業した経験があってそれが糧になったと感じている側は、時に過去を美化しながら、個別の話を一般論として語ろうとしがちだから。そして長時間の残業に苦しんだ経験がある側も、残業を強いる側や残業肯定派に反発を覚えつつも、要求に応えられなかった自分に対して、時に覚える必要のない罪悪感を覚えてしまうことがあるから(そもそも無茶な要求なのに)。それぞれに縛られている同士が、自分を守るために相手を攻撃し合っているんですから、そりゃ熱も入ります。  わざわざ言うまでもありませんが、長時間残業や企業の洗脳の犠牲になった人たちを批判するつもりは、まったくありません。そういう悲しいことが二度と起きないようにするためには、誰かに石をぶつけて留飲を下げるのではなく、各自が仕事に対する自分なりの「ちょうどいいスタンス」を意識して探すことが大切なんじゃないでしょうか。カンニング竹山こと竹山隆範さんも、こう言っています。 「人生正解なんて無い。肩の力を抜いて、楽に生きて行け。俺も肩の力を抜いて楽に生きて行く」  もともと正解はないんですから、気に食わない意見があっても「勝手に言ってろ。私は私の生きたいように生きる」とスルーするのが大人としての勇猛果敢な戦い方です。「肩の力を抜く」というと、手を抜いているといったイメージでとらえる人もいそうですが、そんな甘い道のりではありません。全力で力を抜いて、全力でいろんな呪縛を解き放って、最重要課題である「自分を大事にする」を実践するためにはどうすればいいかを考えましょう。どんどん逃げて、どんどん休んで、どんどん反抗すればいいんです。  というわけで、相談者のあなたは、どうぞ好きにしてください。世間の風潮に惑わされて、望んでもいない方向に生き方を変える必要はありません。いっぽうで、現在はもちろん歳を重ねてからも、自分の生き方こそが正解だと言い張ったり、誰かに押し付けたりするのは絶対にやめてください。それをやった途端、あなたが選んだ生き方にはどこか無理やごまかしがあったということになってしまいます。 【今回の大人メソッド】

たいていの「正解」は追えば追うほど逃げていく

数式や漢字の書き順の正解は、はっきり決まっています。しかし、世の中や人生には、むしろ正解がないことのほうが多めではないでしょうか。目玉焼きの作り方にせよ働き方にせよ、正解は人の数だけあります。人生におけるたいていの「正解」は、追えば追うほど逃げていくのが常。そのうちわかるだろうと鷹揚に構えて、今できることをやりましょう。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)