「“地域循環”、“地産地消”はキレイ事」。“地方創生の雄”兵庫県養父市トップに聞く、日本復活の鍵

 前回の記事では、人口わずか2万6000人前後の田舎でありながら国家戦略特区に指定され、特区の取り組みを評価する諮問会議で、唯一「課題なし」と高い評価を受けている兵庫県養父(やぶ)市の実情を探った。  土地を持っている農家しか農業に携わることができないという従来の農地制度に疑問を持ち、「都市の若者や企業に『養父市でなら、本気で農業をやれる』と思ってもらいたい」という熱意を胸に制度改革を進めてきた広瀬栄市長。そんな革新派市長が腹心として見込んだのが、三野昌二氏だ。  三野氏は「ハウステンボス」の再建にも関わった広島県出身の辣腕コンサルタント。あくまでビジネスマンとしての立場に立った厳しい目で、副市長の務めを果たしつつ、養父市の「新たな産業」の芽を鵜の目鷹の目で探し出す。その一環が地元の名産品のブランド化だ。三野氏はかつて将軍家へ薬として献上された歴史を持つ、由緒ある市の名産品「朝倉山椒」を’15年7月に開かれたミラノ万博に出品した。

養父市の名産「朝倉山椒」を使った商品

 薫り高い朝倉山椒は、スイーツにも合うスパイスとしてたちまち海外のシェフ達の間で評判を呼んだ。東京・浅草の商業施設「まるごとにっぽん」でも養父市と朝倉山椒を紹介するブースが設えられ、好評を博している。  「情報と感性を身につけ、地域の宝を掘り起こせ」。それが、民間企業出身である三野氏ならではの信念だ。

「感性を身につけろ」

「地方再生に携わっている人たちは、やれ『地域循環』だの『地産地消』だのキレイ事を並べ立てるんですけども、それじゃダメなんです。地産地消なんて地元の学校の給食だけでいいですよ。一番重要なのは、地域の経済を回していくこと。言葉のみにとらわれず、何を地域で消費し、何を外で売り出していくかを考えていくことが大切なんですよ。そのためには5年後、10年後を見据えて新しい産業を生み出していくことが必要です。  地元なら100円で売れるものが、大都市だと300円で売れる。それなら大都市のほうで売ればいい。海外で売れるとにらんだら、海外展開すればいい。でも、地元の方ではやはりなかなかそこに気づけないんですね。ですから、私は300名からいる養父市の職員にも常々、『感性を身につけろ』と言っていました。視点さえ変えれば、ビジネスチャンスはごろごろ転がっているんだと」(三野氏)  朝倉山椒を軌道に乗せた三野氏が次に着目したのは、昔、養父市の基幹産業であった「養蚕」だ。三野氏は、「蚕プロジェクト」を進めることで、養父市に今までにない産業を創り出すことができると睨んでいる。  蚕の糸からは高級シルクが作れる上、蚕のフンは肥料としても使える。ベトナムやインドネシアに蚕料理があるように食料としても利用可能だという。蚕の繭から抜き取ったサナギは冬虫夏草になり、切り分けた繭を水につけると美容液代わりにもなるため、利用価値が高い。  「養蚕業が盛んであった頃とは異なり、一年を通した蚕の飼育も容易になっているため、参入もしやすいのだ」と三野氏は説明する。事実、すでに大阪の企業から「ぜひ、プロジェクトに加わりたい」という申し出を受けているそうだ。  無論、養父市の中にも、「このままではいけない」と奮い立ち、チャレンジしている地元の事業者も存在する。たとえば、“幻の豚”と呼ばれる養父市のブランド豚「八鹿豚」は、養父市でたった1軒となってしまった若手の女性養豚農家が「『最後の一軒』を強みにしたい」と精魂込めてつくり上げたブランドだ。養父市発のブランドを育てるべく、市もサポートを惜しまない。
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地元住民との意識のズレ
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