「本当に円安はいいことなのか?」藤沢数希
2014.10.16
円安ドル高傾向が続き、1ドル=110円も突破した。経済の教科書的には、「円安」が進めば、日本の輸出は増え、輸出企業が儲かるとされているが、輸出数量は増えていないという。一方で、円安による輸入物価の高騰という負担がのしかかってくる。本当に円安は我々庶民にとっていいことなのだろうか?
為替市場は大きく円安に傾き、10月1日、1ドル=110円台に乗せた。6年ぶりの円安ドル高水準だ。日経平均株価は1万6000円台を回復した。8月の失業率は約3.5%で、労働需要は依然として強く、飲食店などでスタッフを確保できないといったニュースをよく聞くようになった。アベノミクスによる円安政策は、うまくいっているように見える。しかし、本当にそうだろうか?
円安になると景気がよくなり自国経済にプラスになると信じられているのは、単純な理由からだ。自動車や電機などの輸出企業が円安で価格競争力が増した製品を外国に売りやすくなり、そのために国内の工場などで雇用が増える。また、こうして獲得された外貨で外国から多くのモノやサービスを買うことができるようになる。これが円安政策の狙いだ。
しかし、一向に日本の輸出は増えないのである。それどころか、日本は恒常的に貿易赤字を垂れ流す国になっている。輸出より輸入が多ければ、同じ金額でたくさんのモノを買えるのだから、自国通貨が高いほうが有利だ。化石燃料などの資源を大量に輸入しなければいけない貿易赤字国の日本は、実は円高のほうが潤うのである。
貿易赤字が続いていても、輸出金額自体は増えているように見えるが、それは価値が下落した円で見ているのだから当然である。実際には、輸出数量は増えていない。国際的な競争力が落ちている電機産業で輸出が増えないのは想像できるが、過去最高益を更新し続けている自動車産業でも国内で生産される自動車台数は、この円安のなかでも減り続けている。トヨタや日産など8社の8月の国内生産実績は合計で前年同月比6.9%減の59万7940台となり、2か月連続で前年実績を下回った。
これはよく考えれば当たり前の話である。こうした製造業が、生産拠点を海外に移すのは数年がかりの大プロジェクトである。法律や慣習が異なる外国に工場を造り、ビジネスをするのは容易なことではない。それでも安い人件費などのメリットが上回るので、綿密にビジネスプランを立て、多額の費用を使って、生産拠点を移すのだ。こうした海外と国内では人件費が10倍単位で違うのに、それが1割や2割程度円安になったからといって、国内に工場を戻すわけがないのだ。
⇒【後編】「円安で好景気は偽り」に続く https://hbol.jp/9823
【藤沢数希氏】
欧米の研究機関にて博士号を取得。その後、外資系投資銀行に転身。ブログ「金融日記」管理人。恋愛工学メルマガも発行する。cakesでは恋愛小説も連載中
国内に工場は戻ってこない!本当に円安は日本人にとっていいことなのか?(人気ブログ「金融日記」管理人 藤沢数希氏)
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