「パナマ文書」から透けて見えるアメリカの意図――号外[闇株新聞]

消費増税の先送りが決定し、日経平均は急上昇。一方で、海外に目を向ければアメリカの利上げに大統領選、パナマ文書問題と注目材料が目白押し。’16年後半の日本経済への影響はどれほどのものか? 闇株新聞氏が重大ニュースを読み解く

「パナマ文書」から読み解ける構図

オフショア・リークス

ICIJは5月10日、「オフショア・リークス」という特設サイトでパナマ文書に名前のあった21万4000社にもおよぶオフショアカンパニーの情報とその代表者の名前をすべて公開した

 今世紀最大級の金融スキャンダル」。「パナマ文書」はこのように称され、大いに注目を集めました。そもそもパナマ文書とは、パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」が作成した一連の機密文書で、同事務所が関わった全世界21か所のオフショア金融センター(租税回避地)に設立された21万4000社にものぼるオフショアカンパニーの詳細な情報を記したものです。  オフショアカンパニーを保有すること自体は違法ではありません。しかし、時にはマネーロンダリングや麻薬取引など違法な活動の温床になることもあります。実際、パナマ文書には東欧の麻薬組織の首領や戦争犯罪者、中東のテロ組織の関係者が含まれていたと伝えられています。  過去に複数のオフショアカンパニーの設立に携わった経験をもとに言わせてもらうと、最大の問題点と利用する側のメリットは、実質所有者と活動実態が外部からは一切わからない点にあります。その情報は、管理代理人や法律顧問を務める法律事務所しか持っていません。ケイマン諸島に本部を置くメイプル&カルダーとウォーカーズが2大事務所で、モサック・フォンセカははるかに規模が小さいながらも「世界で最も口が堅い」として知られる法律事務所。彼らはHSBCやルクセンブルクのプライベート・バンクなどから顧客を紹介されると、設立済みのオフショアカンパニーを買ってきたうえで、“名目上”の経営者や業務執行者、株主までもアレンジするわけです。

公表された法人・個人資金の流れは見えず

モサック・フォンセカ

パナマ文書の流出元である法律事務所「モサック・フォンセカ」。“被害者”であるにもかかわらず、4月にはパナマ当局が同事務所に捜査に入った

 そのパナマ文書は5月10日にICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)の手により、すべての法人・個人名が明かされました。なかにはソフトバンクグループの孫正義氏や楽天の三木谷浩史氏らの名前もあり、メディアでは悪者のように書かれました。しかし、実際には単に名前が出ただけ。資金の流れを示す銀行間の取引履歴や送金指示書等はまったく出てきていません。「世紀のスキャンダル」とは到底言えない内容です。  税金逃れを企む人間が、実名を使ってオフショアカンパニーを登記するはずがありません。複数のオフショアカンパニーを出資者とし、巧妙に素性を隠します。つまり、世紀のスキャンダルとするには、明らかになったオフショアカンパニーの出資者をたどり、その設立に関与した法律事務所から実質所有者を洗い出すという途方もない追跡調査が必要なのです。  にもかかわらず、意味もなく名前だけを仰々しく公表したのはなぜか。結論を言うと、アメリカ当局の意向が働いていると予想されます。オフショア金融センターは世界に数多くあり、カンパニー数最多を誇るのは英国領バージン諸島(BVI)。当然、パナマ文書にもBVIにあるオフショアカンパニーが数多く登場しています。しかし、まったく名前の出ていないオフショア金融センターもあるのです。それが、アメリカのネバダ州、デラウェア州、ユタ州、ワイオミング州など。自国内にこうした租税回避地があるため、パナマ文書からはアメリカ人の情報がほとんど漏れていません。一方で、OECDが「金融口座に関する自動的情報交換(AEOI)」という口座情報の共有システムの構築を進めていますが、OECD加盟国が軒並み参加を表明するなか、アメリカは協力しない意向を示しています。総合すると「アメリカの租税回避地から情報が洩れることはない」というメッセージを発信していると考えられるわけです。南ドイツ新聞とICIJを隠れ蓑に、世界のオフショアマネーをアメリカに取り込もうという意図が透けて見えます。 【闇株新聞】 ’10年に創刊。大手証券で企業再生などに携わった経験を生かして記事をアップし続けるWebメディア。金融関係者などか注目を集める ― 号外[闇株新聞]2016年日本経済の後半を読み解く重大ニュース ―

◆経済事件は“つくられる”闇株新聞の新著が近日発売!

 '07年から'11年で各年度の連結純資産を416億~1178億円も不正に計上した巨額損失事件を覚えているだろうか?オリンパス事件だ。闇株新聞氏はいち早く同事件の関係者を取材し、記事を執筆。その記事は報道関係者はもとより、当局からも大いに注目を集めた。昨年は東芝の不正会計事件も発覚。このときも、上場廃止も免れないほど決算発表が遅れたにもかかわらず、関東財務局がたったの1時間程度で有価証券報告書の提出期限延長を認めたことなどを報じた。これらの経済事件の知られざる真実を明らかにする新著が、間もなく発刊予定。

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