「真田太平記」から学ぶ、勝負弱さを克服するヒントとは?

真田太平記

写真/ Raisa H

 本番にやたらと弱い人がいる。普段はそつなく仕事をこなすのに、大事な場面に限ってミスを連発。プレッシャーがかかると、途端に実力を発揮できなくなる。そんな“勝負弱さ”を克服するには、どうすればいいのか。  今回は『真田太平記(三)上田攻め』(池波正太郎著/新潮文庫)から打開策を探りたい。  大河ドラマ「真田丸」最新話では、上洛するよう迫る豊臣秀吉(小日向文世)に対し、北条氏直(高嶋政伸)が、真田家が治める沼田領を渡せと迫った。権力争いに巻き込まれ、勝手に交渉の道具にされ、父・真田昌幸(草刈正雄)が激怒する。  一方、小説『真田太平記(三)』でも、徳川・北条軍と上杉・真田軍が、上州・沼田の地を巡って戦う。真田側の兵力は、徳川・北条軍のわずか五分の一。圧倒的に不利な状況にも関わらず、父・昌幸は沼田領を守り抜き、家康を“泣き寝入り”させ、世間の耳目を集めた。

「小心でなくては、大胆にもなれぬものだ」

 父・昌幸は上田城を本拠地とし、大胆な奇襲を迷いなく仕掛けていく。しかし、実は作戦が決まるまではくよくよと思い悩んでいた。次男・幸村は「父上には、小心と大胆とが腹合わせになっています」と感心する。昌幸曰く「小心でなくては、大胆にもなれぬものだ」という。  昌幸は“小心者”としての自覚があり、受け入れてもいる。とことん悩み尽くすからこそ、アイディアも生まれ、準備も整う。沸き上がる不安感は“ていねいな仕事”の原動力となる。資料の準備、質疑応答のシミュレーションなど、念入りな準備を重ねれば、本番のプレッシャーもおのずと軽減されるのだ。

「うれしいも苦しいもござらぬ」

 徳川家康は真田氏と和解した後、長男・信幸に自分の養女との縁談を持ちかける。父・昌幸は渋面をつくるが、信幸は迷わず、承諾する。「三河守の養女を嫁にしてうれしいのか?」と問いただす父に、信幸は「うれしいも苦しいもござらぬ。父上。このとき、この場合、お受けせねばなりますまい」と返した。 “最優先すべきこと”を明確に規定すると、感情や気分に振り回されなくなる。真田一族にとって、徳川との和解が最重要だったように、あらゆる仕事には果たすべきミッションがある。なすべき仕事に集中することで、目標の輪郭はますます鮮明になるはずだ。

「こたびはな、ゆるりと戦うぞよ」

 秀吉の仲裁で、北条氏は真田氏と和解する。だが、秀吉からの上洛要請を無視し続けたため、北条討伐の命令が下る。出陣にあたって秀吉は「こたびはな、ゆるりと戦うぞよ」と宣言する。“こころ急いた戦をせぬ”ことで威勢を見せつけ、「北条父子を恐れ入らせてしまうつもりじゃ」という。  プレッシャーがかかる状況下では、気がせくものだ。しかし、焦りは判断ミスや準備不足を招く。重要な局面だからこそ、立ち止まって考える。最大の効果をどう得るか。自問した上で行動に移せば、思い込みで誤った結論に走るといった愚行を回避できる。 “本番に強いかどうか”は、生来の性格というイメージがある。しかし、実はプレッシャーへの対応スキルの問題だ。緊張やストレスにさらされても、平常運転で仕事に向き合う。その成功体験を重ねることが、勝負強さにつながる。 <文/島影真奈美 写真/Raisa H> ―【仕事に効く時代小説】『真田太平記(三)上田攻め』(池波正太郎著/新潮文庫)― <プロフィール> しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
真田太平記(三)上田攻め

上州・沼田城の帰属をめぐり北条家と争う真田昌幸は、ついに徳川・北条連合軍と戦端を開く。

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