ガソル選手の内心の不安を裏付けるかのように、カナダの疫学者アミール・アタラン氏が今回のオリンピック開催は延期されるべきだとして、その理由を〈予想外のルートでジカ熱が感染する恐れのある〉ことを挙げている。彼も前出のWHOに提言した100人の専門家のひとりである。
アタラン氏が怖れているのは〈オリンピックに50万人が駆けつけたとして、それは世界の隅々からの訪問者で、彼らが感染したとした場合に、自国に戻って地元に棲息する蚊が感染者のウイルスを別の人に伝搬させて病気が広がる可能性がある〉ということだ。
さらに、〈ブラジルのウイルスは他の多くの国のそれとは異なっているのだ〉とも補足して、〈以前はジカ熱で小頭症の発生しなかった地域が、どのように変化するか観察して行かねばならなくなる〉と言及している。(参照:『
El Pais』)
ブラジルではジカ熱のウイルスの影響で小頭症の赤ん坊が4000人誕生している可能性があるとされているのだ。その同じウイルスが、リオオリンピックが予定通り開催されると他の国でも同じ現象が普及する可能性が強くなるという怖れがあるということになる。
リオデジャネイロ市ではジカ熱と同類の〈デング熱の感染者が今年第1四半期で既に前年同期と比較して320%の増加〉が観察されているという。
しかも、同市は財政難にあり、公共支出も50%削減されている。その影響で、例えば公衆衛生の安全管理も不十分な状態にある可能性が充分にある。医療サービスの低下は既に現地市民の間で充分に経験しており市民の不満が募っているという。
<文/白石和幸 写真/photo by
Howcheng on Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。