桂歌丸が説いた「ホメずに伸ばす」若手指導法とは?

【石原壮一郎の名言に訊け】~桂歌丸の巻 Q:後輩の指導方法に悩んでいます。自分が指導役を務めている新入社員は、仕事の覚えが悪くてヤル気もイマイチ感じられません。そのくせ、何かというと「ボク、ホメられて伸びるタイプなんです」とこっちをけん制してきます。そう言うならとなるべくホメるようにしているんですが、同じ失敗を繰り返すなどまったく伸びる気配がありません。どう指導すればいいんでしょうか。(愛知県・28歳・イベント企画)
笑点

『笑点』公式HPより

A:朝ドラの「とと姉ちゃん」風に言うと「どうしたもんじゃろのう……」というところですね。徐々に世の中の共通認識になりつつありますが、自分で自分のことを「ホメられて伸びるタイプ」と言うヤツはロクなもんじゃありません。ホメても伸びないし、厳しく接するとすぐに逆恨みします。  これを読んでいる学生の方は、社会に出たときに間違っても自分のことを「ホメられて伸びるタイプ」なんて言わないようにしましょう。若手社会人で、そう言ったら可愛がられるだろうと勘違いして自称してしまっている方は、今すぐ先輩や上司に「よく考えたら、自分は厳しくされて伸びるタイプでした」と訂正しておくことをオススメします。  先日、桂歌丸師匠が50年間出演し続けた「笑点」からの引退を発表しました。本日5月22日放送の回が最後の出演だそうです。今回は、歌丸さんが弟子を指導するときに心がけてきた言葉から学ばせてもらいましょう。その新入社員が、今度「ボク、ホメられて~」とぬかしやがったら、この言葉を返してみてください。 「褒める人間は敵と思え。教えてくれる人、注意してくれる人は味方と思え」  ま、そいつが意味を理解できるかどうかはわかりませんが……。歌丸さんが中学生で噺家になってすぐに、師匠から言われた言葉だとか。師匠の言葉は、こう続きます。「若いうちに褒められると、そこで成長は止まっちゃう。木に例えれば、出てきた木の芽をパチンと摘んじゃうことになる。で、教えてくれる人、注意してくれる人、叱ってくれる人は、足元へ水をやり、肥料をやり、大木にし、花を咲かせ、実を結ばせようとしてくれている人間だって」。  じつはホメるのは、指導する側にとっても楽な接し方です。注意したり叱ったりすれば、相手は反発したり腹を立てたりするでしょう。しかし、ホメておけば「いい先輩」と思ってもらえます。「叱られるのが苦手」な若者が増えていると言いますが、そんな若者たちを作っているのは、嫌われることを避けてちゃんと叱ることができない無責任な大人たちに他なりません。後輩の木の芽を摘まずに、水や肥料をあげて実を結ばせたいなら、厳しく接するのがいいんじゃないでしょうか。いや、不必要に威張る必要はありませんけど。  ただ、歌丸さんは、こうも言っています。「二十歳を過ぎた人間にモノを教えることは何もない。二十歳になった人間は大人だ。二十歳を過ぎたら自分で気づくよりほかない」。仕事で一人前に育ってもらうための指導は大切ですが、「性根を叩きなおそう」「別人に生まれ変わらせよう」と思っても、それはきっと無理な話です。先輩という立場でできるのは「仕事に必要な具体的な知識や考え方を授けること」だけと言っていいでしょう。  そうこうしているうちに、結果的に人間としての成長が見られることはもちろんあります。でもそれは指導した先輩の手柄ではなく、いろんな経験を経て本人が自分で気づいたから。先輩の分をわきまえて、「俺のおかげ」と思いたい甘い誘惑を振り切るのが、先輩としての大人の美学と言えるでしょう。それでも、深い感謝や強い絆といったものは生まれるときは生まれるので、寂しく思う必要はありません。 【今回の大人メソッド】

「相手のため」と思うと何かと厄介が増える

これもまた甘い誘惑ですが、後輩なり部下なりを指導する側は、つい「こいつのためにやっている」と恩を着せたくなります。そういう一面もあるにはありますけど、あくまで先輩や上司としての「役割」を果たしているだけ、ぐらいに思っておきたいところ。そのほうが自分にとっても相手にとっても、過剰な期待といった呪縛に振り回されずに済みます。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会