プーチンの宿願、ロシアに新しいロケット発射場が完成。その狙いとは?

建設中のヴァストーチュヌィ宇宙基地を訪れたヴラジーミル・プーチン大統領(2015年10月) Photo by Kremlin

ロシア極東に新しい宇宙基地を

 ロシアにとって、この問題は燃眉の急だという認識があったらしく、1991年の成立直後には早くも、ロシア国内に新しいロケット発射場を設ける検討が始まった。  ロケット発射場を造るには、広い場所が必要であることは当然ながら、気候や地震活動が安定していることや、分離したロケットのタンクなどの落下に備え、ロケットが飛ぶコースの下に人口密集地がないこと、また地上からアンテナでロケットを追尾できること、といったさまざまな条件がある。いくつかの候補地が検討された結果、1993年になり、アムール州の中国国境に近い場所に位置する「スヴァボードヌィ18」というミサイル基地を改修し、ロケット発射場にするという決定が下された。スヴァボードヌィ18の周囲、とくに北から東にかけては森林地帯が広がっており、何より東にはオホーツク海もあることから、ロケット発射場としては最適だったのである。  しかし、1990年代のロシアは財政難にあえぐことになり、この新しい宇宙基地の建設もほとんど進展しなかった。一時は計画そのものが中止となるが、2007年11月6日にヴラジーミル・プーチン大統領によって計画が復活。このとき、新たに「ヴァストーチュヌィ」(東方)という名前を付けることも決まった。  さらにその後も、いったいどのロケットの発射台を造るかで計画は二転三転した。このころロシアには、旧式ながら信頼性の高い「ソユーズ」ロケットと、同じく旧式ながら重い衛星を打ち上げられる大型ロケットの「プロトン」があり、そしてこれらの旧式ロケットを代替することを目指した「アンガラー」と「ルーシM」というロケットの開発計画があった。もしアンガラーとルーシMの開発が順調に進めば、ヴァストーチュヌィ宇宙基地にはこの2機種の発射台が造られるはずだったが、やはりここでもロシアの財政難が影響し、アンガラーの開発は大幅に遅延、ルーシMは開発中止となってしまう。結局、旧式のソユーズの発射台をまず建設し、そのあとでアンガラーの発射台を造り、徐々にソユーズとプロトン、などの旧式ロケットを代替する、ということで決着した。  ソユーズの発射台の建設は2012年から始まり、プーチン大統領は2015年中に完成することを要求した。しかし、2014年から2015年にかけ、建設を請け負っていた業者のトップが建設資金を横領していたことが発覚。加えて作業員への給与未払いが発覚したり、その作業員の一部がハンガー・ストライキで抗議したりなど、問題が相次いだ。プーチン大統領やロシアの宇宙政策を担当するロゴージン副首相は対策にあたり、たびたび自ら出向いて視察するなどして解決が図られたが、目立った改善は見られていない。さらに打ち上げまで2か月を切った2015年10月には施設の設計ミスも発覚し、結局2015年中の完成は間に合わなかった。  そして2016年4月28日5時1分(モスクワ時間)、プーチン大統領やロゴージン副首相などが見守る中、ヴァストーチュヌィ宇宙基地からようやく最初のロケットの打ち上げが行われ、無事成功を収めた。  もっとも、当初打ち上げは27日に予定されていたものの、ロケットの問題で安全装置が働いたために中止。その対応のため1日延期となった末の打ち上げであった。安全装置がしっかりと働いたということは技術的に良いことではあるものの、この失態を受け、プーチン大統領は関係者らを叱責したという。さらにその後、問題があるとされた部品を製造した企業の社長が辞職する事態になっており、技術的にはともかく、政治的には必ずしも華々しい門出とはならなかったようである。
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ロシア宇宙開発の自立に向けた第一歩
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