3・11「再建おじいさん」に学ぶ「立ち直り」の哲学

【石原壮一郎の名言に訊け】~只野昭雄(再建おじいさん)の巻 Q:これまで目をかけてくれた上司が、急に冷たくなった。俺が仕事で大きなミスをしてしまったからだ。しかも、どうにか隠せないかと思っているうちに報告が遅れたり、小さなウソをついていたことがバレたりなど、悪いことが重なってしまった。何度も謝ったのだが、許してもらえそうにない。この会社での俺の未来はお先真っ暗だ。もう転職するしかないのだろうか。毎日が針のムシロだ。(群馬県・29歳・メーカー) 朝日A:本人にとっては大問題なんでしょうけど、読んでいるうちに腹が立ってきました。この程度のことで「お先真っ暗」だの「針のムシロ」だのって、どんだけ会社命のサラリーマン根性が染みついているのかと。しかもほぼ自業自得だし。今日は雨のせいか喫茶「いしはら」には閑古鳥が鳴いているので、僭越ながら私がお答えいたします。  上司との関係が悪化したからからって、べつに命まで取られるわけじゃなし、「それがどうした」と思ってりゃいいじゃないですか。誠実に謝って心を入れ替えて仕事に精を出していれば、そのうちどうにかなりますよ。がんばって、どうにかしてください。今、尻尾を巻いて転職したところで、またそのうち同じことをやるだけでしょうね。  それはそうと、東日本大震災から早いもので5年が経ちました。たくさんの命が失われました。直接被災した方の苦しみは癒えることはないし、復興もなかなか進みません。しかし、被災地以外に住む私たちは、あの時にどれだけショックを受けてどれだけ悲しかったかや、何とか応援したいと心から思った気持ちを忘れかけています。  地震が起きてから3日後に、壊れかけた建物から助け出されたおじいさんのこと、覚えてますか。3日ぶりに自衛隊に救助された際に、テレビ局の取材に対してこう答えました。 「大丈夫です! チリ津波ん時も体験してっから。大丈夫です! また再建しましょう!」  おじいさんは、岩手県大船渡市で旅館を経営していた只野昭雄さん。極限の状況にありながら、笑顔で力強く「また再建しましょう!」と言い切った彼の姿は、「本当の強さとは何か」を教えてくれました。被害の大きさが徐々に明らかになり、日本中が落ち込んでいた中で、彼の言葉がどれだけの勇気と力を与えてくれたことか。  只野さんは、その後ネット上などで、尊敬を込めて「再建おじいさん」と呼ばれました。その言葉どおり、奥さんと力を合わせて翌年6月に旅館の再建を果たします。そして再建を見届けた3か月後に、残念ながら病気でお亡くなりになりました。享年83歳でした。極限の状況でも前を向いていた只野さんの姿と、上司に嫌われたとウジウジ悩んでいる自分の姿。頭の中で比べてみてください。たぶん、恥ずかしい気持ちになるかと思います。  でも、私たちも人ごとじゃありません。あなたは私たちです。震災があった直後は、生きていることのありがたさや助け合うことの大切さを思い知ったはずなのに、今はこの体たらくです。細々した出来事にクヨクヨしたり芸能人の不倫に大騒ぎしたり、政治家の失言に腹を立てる自分にウットリしてみたり。恥ずかしいし、情けない話です。  上司に嫌われても会社が潰れても、あなたの未来はなくなりはしません。自分がいかに「会社」に縛られた狭い視点でしか物事を見ていないか、まずはそこに気づきましょう。私たちもそれぞれ胸に手を当てて、何が自分を縛っているのかを考えてみます。もし子どものころの自分が、今の自分を見たらどう思うんだろうと想像しながら。 【今回の大人メソッド】

おっさんサラリーマンのふり見て我がふり直そう

今日も全国各地の赤ちょうちんでは、おっさんサラリーマンが威勢よくくだを巻いています。狭い世界の中での自己肯定に満ちた彼らの言いぐさにこっそり耳をすませれば、いろんなことを考えさせられるでしょう。「ああはなりたくない」と反面教師にするもよし、すでに自分もやっている場合はそのみっともなさを再認識してみるのも、またよしです。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
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