スコットランドの独立志向は所詮“ぜいたく病”にすぎない
9月19日に行われた、スコットランドのイギリス(正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国)からの独立を問う住民投票。投票直前の世論調査で独立賛成派が逆転して一躍世界的に注目を集めたが、終わってみれば55%対45%で独立反対派の“圧勝”という形で終わった。
今回の結果を受けて、イギリスのネット上では「スコットランドのキンタマは縮み上がって、結局ピーナッツみてえな女々しいタマがついてるってオチだったな」のように、民族主義の気勢を上げたものの、結局は独立することにビビッたのだと、その“ヘタレぶり”を揶揄する声も見受けられた。言い方はさて置き、こうした意見に一理あるのも確かだろう。
1707年にイングランドによって事実上“併合”されたスコットランドには、確かに今でも自分たちはスコティッシュ(スコットランド人)であるという誇りを持っている人は多い。
ただ、そもそも近年のスコットランド独立運動の高まりは、要はカネの問題がきっかけだ。
70年代頃から、基幹産業だった造船業や鉄鋼業が斜陽化し、スコットランドの経済は停滞してイングランド地域との経済格差も広がった。その一方で、北海油田の石油や天然ガスは、自分たちの目の前の海で湧き出ているにもかかわらず、その利益の大半は中央政府(つまりはイングランド)が持っていってしまう。そうした経済的不満が徐々に募った結果、歴史的な経緯もあって「イングランドの野郎、ふざけんな! 独立してやる。連中の慌てふためく姿が目に浮かぶぜ」という声が挙がったわけだ。
とはいえ、現実の社会が厳しいであろうことは、スコットランドの人々も薄っすらと気づいていたのだろう。独立運動を主導したスコットランド国民党が強力な経済基盤として挙げた北海油田の権益にしても、開発にはイングランド人の血税も投資されているわけで、そうやすやすとイギリス政府が譲ってくれるはずもない。EUに加盟すればという期待も、ギリシャ問題を見ても明らかなように、経済弱小国のケアで四苦八苦するEUにとっても、これ以上“お荷物”を抱えることには難色を示すことは明白だ。また、国際交渉の場でも、イギリスという“金看板”を降ろした人口500万人の小国となれば、相手国の対応も変わってくるだろう。国際交渉力の低下は当然、国民個々の生活レベルにも影響を及ぼす。
独立してより貧乏になったのでは、スコットランドにとっては本末転倒だ。スコットランド人の中にもコアな民族主義者はいるだろうが、結局のところ、個々のスコティッシュにとっては、民族主義より豊かな生活のほうが大事。それが順当に投票結果に反映されたということだろう。
今回のスコットランド独立騒動、世界各地で起きている民族問題と並べて語られる向きもあるが、とうてい同列には語れない。中国におけるウイグルやチベット、あるいは中東のクルド人たちのように、民族浄化や文化的抹殺などの迫害にあっている民族なら国際社会の理解も得られよう。彼らにとっては、独立は民族の存続がかかった問題だからだ。一方、スコットランドの場合、むしろ大国イギリスの一員として受けている恩恵のほうが大きい。クルド人などから見れば、スコットランドの“独立指向”は 、所詮は“ぜいたく病”にすぎないのではないか。
また、ジャーナリストの須田慎一郎氏は、「私は地域分離、民族自決という時代の流れからすると、ひょっとして独立賛成という結果もあり得ると思っていました」としながらも、それが即ち、イギリスからの“完全な独立”を意味するものではないとも指摘する。
「例えば、スコットランドにはイギリス唯一の核ミサイル搭載原潜の基地がある。スコットランドはその継続使用を認める代わりに何かしらの見返りを、逆にイギリスは通貨としてポンドを認める代わりに何がしかの譲歩をといった、両国間で条件闘争をしつつも、密接な関係を維持せざるを得ません。別国家として分かれたところで、チェコスロバキアから分離独立したチェコとスロバキアのように、ほぼ一体化した関係は変わらないでしょう」
今回の住民投票を振り返れば、独立によるデメリットを抱えることなく、一方で“大国”の国民のままで大幅な自治権拡大が得られたのだから、スコットランドにとっては案外ベストの結果だったと言えるのではなかろうか。<取材・文/杉山大樹>
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