大連で北朝鮮が投資説明会を開催。日韓へのアピールも
「我が国はどこからの投資でも受け入れる用意がある」
<取材・文・撮影/我妻伊都>
この一言に、会場は一瞬静まり返った。取り分け大した発言ではないが、発言の主が過去に前例がない北朝鮮の対外投資の責任者なのだから注目に値する。
9月20日、中国は大連にあるシャングリ・ラホテル大連(中国遼寧省大連市)3階の一室で北朝鮮の投資説明会が行われた。集まった投資家は約200人。今回の投資説明会は、大連市朝鮮族企業家協会が主催し、世界韓国人貿易協会(OKTA・本部ソウル)の協力で開催。金慶洙 朝鮮対外経済投資協力委員会副委員長を団長とする5人が北朝鮮側から参加し、会場には、大連市朝鮮族企業家協会員やOKTAのワシントンやロンドン、シドニー、東京などの各支部で活動する在外コリアン企業家たちが集まり、説明会は朝鮮語のみで進められた。
今回の説明会が異例なのは、韓国籍の企業家もいること。そして、事前に日韓のマスコミに取材要請をしてきたことなどがある。現実的には現在、日本企業の北朝鮮への直接投資はできないが、明らかにマスコミを通して日本や日本企業へアピールしたい意図が感じられる。
まず、李成赫 国際貿易促進委員会法規部副局長が、北朝鮮の投資政策と投資環境を説明。その後、質問を受け付け10人ほどが質問をぶつけた。
米国籍でワシントンの女性起業家パク氏が 「スキーリゾートへの投資に上限はあるか?」と質問すると、李氏は 「無限大」 と短く回答。
「病院など医療ビジネスへの投資はできるのか?」との質問に対しては、 「我が国は医療は無料なので儲からないと思う」 との回答に会場からは失笑が漏れる。
後半は、呉応吉 元山開発総会社社長が、敵国であるはずの米マイクロソフト社のパワーポイントを使い日本海側、万景峰号の母港で多くの日本人拉致被害者を最初に上陸させた場所としても知られる元山の現状と開発予定について説明。
中国やロシア、日本から1、2時間圏内という好立地。特区として、税金の優遇政策で低税率であること。さらに、新空港開港や港の拡張、高速鉄道などを開通させるなど物流や交通インフラを整備し、韓国との国境に近い金剛山とを一体化したリゾート開発計画など、期限もない理想像的な説明を繰り返し、説明会は終了した。
会場では、在大連領事事務所、日本貿易振興機構(ジェトロ) 、都道府県事務所の関係者や韓国外交官も見守っていたが、韓国側は、韓国側の参加を認めた柔軟な姿勢と今までとは異なる丁寧な受け答えに驚いていた。一方、日本の立場的には、特に目新しい情報はなく、説明も具体性に欠けると苦笑い状態であった。
日本側は冷ややかな視線を送ったが、それもそのはず。現時点で日本企業が北朝鮮へ投資することは考えづらい。なにしろ拉致問題の解決、日朝交渉を進展させることなく、同国へ投資を先行させることは、世論の強い反発を受けることは容易に想像できるからだ。そもそも、北朝鮮政府が信頼に値するのかも根本に横たわる問題だ。投資したものが突如、一方的に”無慈悲な”没収をされるような事態を、南北共同運営の開城工業団地で目の当たりにしているからだ。
最初に壇上に立った李氏は、「合法的な投資は、共和国政府が法に基づき保護する」と力説していたが、信じている人は少ないだろう。そのあたりの国家としての信頼を獲得するために北朝鮮は何が必要かを真剣に考え、現実的な行動を積み重ねることで、多少は同国への投資可能性を感じる日本企業も増えてくるのかもしれない。
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