こうした動きに対して、米国はラテンアメリカでどのように動いているのか?
「Hispan TV」電子紙によれば、〈米国にとって一番危険度の高い国としているのがニカラグアとベネズエラだ〉という。
米国のラテンアメリカ戦略の展開において土台となるのがメキシコ、コロンビア、ペルー、チリの4か国による太平洋同盟だ。一方、反米主義を唱えたベネズエラのチャベス前大統領が提唱し発足させたのがキューバ、ボリビア、ニカラグア、エクアドルなどから構成される〈米州ボリバル同盟(ALBA)で、太平洋同盟はこれと対峙する役目を担った〉という。
そして鍵となるのが、太平洋同盟の中でもベネズエラと国境を共有するコロンビアの存在なのだ。コロンビアは嘗て麻薬組織カルテルの巣窟であった。その上に、ゲリラ組織M-19やコロンビア革命軍(FARC)などが存在し、国内は麻薬、テロ、誘拐などが多発し、世界で最も危険な国のひとつとされていた。それを撲滅すべくコロンビア政府は米国の軍部の支援を得て戦い、15年経過した現在のコロンビアは治安は改善され、M-19は1990年に解散、コロンビア革命軍とはキューバの首都ハバナで現在和平交渉を進めている。このような過程を経たコロンビアは現在〈米国にとって南米における航空母艦〉といった役目を担っているという。
対するベネズエラのチャベス前大統領は米州ボリバル同盟と合わせて、石油を周辺の開発諸国18カ国に安価に提供するペトロカリベ協力機構も発足させた。この恩恵を強く受けていた国がキューバやニカラグアである。
チャベス政権下で原油価格も高く維持されていた時に、中国はシノペックをリーダーに〈オリノコの油田地帯の開発を積極的に進め、将来的にはその原油をニカラグア運河を通して中国に送る計画を立てている〉という。
しかし、原油安になった現在、国家の歳入の90%を原油の輸出に依存するベネズエラは、極度の財政難とハイパーインフレに苦しんでおり、マドゥロ政権は今年デフォルトするとさえ予想されている。
そして、これを米国が狙っているのである。米国はベネズエラ議会が既に野党に支配された中でマドゥロ政権の瓦解を待っているというのだ。その為にも米国はベネズエラの要人らへの制裁は継続させて行くつもりだ。〈航空母艦であるコロンビアとCIAの協力で背後からベネズエラの軍部もその瓦解を容認する方向に動かす〉という。これが米国が描いた絵図だ。
またニカラグアについても、既にチャベス亡きあとではペトロカリベ協力機構に加盟している恩恵は期待出来なくなっている。なにしろ、ベネズエラの国家財政は厳しい状況にあるのだ。
ここでの米国の戦略はニカラグアのダニエル・オルテガ政権を内部から揺さぶり打倒させることであるという。
南米南部共同市場(メルコスル)リーダー国であるブラジルとアルゼンチンは中国に強く依存して来たこれまでの体制から、両国政府は米国との関係の見直しに動いている。そして最終的には太平洋同盟とメルコスルをひとつの共同市場にさせることである。これを米国が狙っているようだ。
<取材・文/白石和幸 photo by
Agencia Brasil(CC BY 3.0 BR)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。