北朝鮮資本の四つ星ホテル「七宝山ホテル」に行ってみた
世界で唯一の北朝鮮資本のホテル(※中国では外資100パーセントのホテルは作れないので、正確には同国独資ホテルではなく中国との合弁ホテル)と呼ばれる七宝山ホテルは、中国の瀋陽にある。高麗時代からの名峰を冠するこの4つ星ホテルは、15階建て160室を持ち2000年にオープン。その後、改修のため2011年夏から営業を全面停止し、翌年1月末にリニューアルしている。2011年12月末に金正日総書記が死去したため、多くの行事が自粛や延期する中、金正日総書記自ら指導するほど熱を入れて改修を行い、予定通りオープンさせたところを見ると北朝鮮にとっての重要度を感じることができる。
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一方、北朝鮮「らしさ」を感じられる点もある。
フラフープ大のチマチョゴリを身にまとった北朝鮮女性スタッフがフロントで迎えてくれるのだが、彼女たちは一様にまるっきり愛想がないのだ。
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さらに、楽天トラベルやAgodaからでも予約できた同ホテルが、リニューアル後にそれらのサイトから忽然と消えたのだ。それだけならば、サイト側との行き違いなども考えられるが、なんと公式サイトすらも消滅し、電話番号も全面変更していたのである。単なる手際の悪さなのか、別の意図でそうしたのか不明であるが、世界の4つ星クラスホテルでは、まずあり得ない情報化社会に抗うような対応に北朝鮮「らしさ」を感じさせてくれる。
現時点では、日本版もオープンした「Ctrip(シートリップ)」や「北京ガイド」など一部中国系サイトからなら日本人でも予約して宿泊できる。しかし、七宝山ホテルと日本語で検索してもヒットしないので、瀋陽でエリアを限定して探し当てるか、Chilbosanや七宝山饭店などと入力する必要があり、かなり面倒くさい。
そんな「七宝山ホテル」に実際に行ってみた。
七宝山ホテルがあるのは、賑やかな太原街に近い地下鉄1号線の南市場駅から徒歩3分くらいと外国人でも迷わず行ける。
カードキーを受け取り客室へ向かうと、廊下に設置されている広告用LCDはビューソニック(アメリカ)、金色仕様のエレベーターはフジテック(日本)と、意外にも西側諸国の製品が導入されている。各居室に置かれたテレビは驚くことにサムスン(韓国)。中国の影響か、プライドよりも合理性を追求しているようだ。
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床に敷かれた絨毯は、足が取られるほどフカフカで高級感がある。その割に、一番安いデラックスツインルームで約6000円とお手頃な価格だ。広さは20m2くらいある。有線LANもあり大連の新しい4つ星ホテルと比べても遜色ないのである。
各客室のサムソン製テレビでは、朝鮮中央放送を視聴することができる。同放送は、平日17時から23時(平壌時間)と今時珍しい時間にしか放送しておらず、土日は午前10時から放送が始まる。放送開始時には、金日成主席と金正日総書記の両人の歌と顔がアップで迫ってくる。
ホテルの2階には、玉流館という北朝鮮レストランがある。巨大な半円ステージを持ちホテルの名に恥じない豪華なレストランだが、フロントのスタッフ同様に無表情で無機質な動きで、カメラを取り出そうものならすごい剣幕で注意される。各スタッフはかなり厳しく監視、指導されているのだろう。もし、北朝鮮レストランへ行くなら、ここからタクシーで15分くらいの世界最大規模のコリアンタウン「西塔」の方が楽しめる。北朝鮮資本のホテルとはいえ、あるのは中国。外出は自由なのでまったく問題ない。
そして実は、この七宝山ホテル、北朝鮮にとって外貨獲得以外にも第二領事館的な役割を担っている点も見逃せない。
七宝山ホテルが、なぜ北朝鮮の第二領事館的な役割を担っているのか? その理由がいくつかある。
ひとつは、同ホテルから南へ7分ほど歩くと北朝鮮領事館があることだ。
また、同国唯一の航空会社「高麗航空」のオフィスが1階ロビー左奥にあることだ。ここは、予約等もできるらしいが、中国語が全く話せないスタッフもいるなど、北朝鮮人向けであり、北朝鮮からの出入国の窓口になっているのだ。
さらに、瀋陽が北朝鮮サイドの情報を入手するのに適した場所だということもある。瀋陽から中朝国境の丹東へも車で3時間ほどすれば着くので瀋陽と丹東から効率よく情報を得ることができるという地理的な要因がひとつ。2つ目は、瀋陽は平壌からの直行便があるため、北朝鮮との協議や会議などがよく開かれ、その際に、北の関係者は全員同ホテルへ宿泊するという人的な要因である。日本人や日系企業が少ない瀋陽にも関わらず、読売新聞と朝日新聞が支局を置いているのは、こうした理由である。
瀋陽へ出張や観光で行く機会があれば、北朝鮮ホテルへ宿泊してはいかがだろうか。北朝鮮に行かずして、同国の「今」を、少しは感じることができるはずだ。
<取材・文・撮影/我妻伊都>
※参照リンク(外部サイト)
●Ctrip(http://jp.ctrip.com/)
●北京ガイド(http://www.pekingaido.com/)
リニューアル後、外観には変化はなかったが、内装は非常にきれいになり、中国で流行している鏡のように光沢感ある床、中国独自認定の星の数に影響する巨大なシャンデリア(位置と大きさが重要とされる)が目を見張る。
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