職場のメンタルケアが「不祥事社員」を防ぐ

 日々ニュースを賑わせる“不祥事”の数々。組織ぐるみの大事件が耳目を集める一方で、最近とみに増えているように思われるのが、「フツーの会社員がとんでもない事件を起こす」という事例だ。 職場 2014年4月にも、JTB社員の不祥事が世間の耳目を集めたばかり。高校の遠足で使うバスの手配を忘れ、あろうことかそのミスを隠蔽するために、生徒を装って「遠足を中止しなければ自殺する」という内容の手紙を高校に送りつけた……という一件だ。ワイドショーなどでも大きく扱われたこの騒動、コメンテーターはこぞって「なぜ上司に相談しなかったのか」という疑問を口にしていたが、「上司に叱られたくない」とか「クビになったらどうしよう」といった動機は容易に想像できるし、多少なりとも共感できるという人は多いだろう。  JTB社員の悲劇は、われわれ自身にとっても決して他人事ではない。というのも、誰もが感じている「ストレス」こそが“トンデモ不祥事”の引き金になり得るからだ。多くの有名企業で産業医を務める、榛原藤夫氏(仮名)はこう解説する。 「米国国立労働安全衛生研究所が作成した『職業性ストレスモデル』は、仕事上のさまざまなストレスが引き起こす反応をまとめたものですが、それによるとストレス反応は大きく3タイプに分かれます。ひとつめは〈心〉に出るもの。いわゆる〈うつ〉ですね。ふたつめは〈体〉に出るもの。胃潰瘍などがそうです。そして3つめが〈問題行動〉に出るもの。代表的なのは『職場からの遁走』や『アルコール依存』などですが、日頃、マジメに働いていた人が考えられないような不祥事を起こした場合は、この3つめを疑う必要があります」  ストレスと、うつや体調不良の関係は、今や広く知られるようになったが、〈問題行動〉がクローズアップされることはあまりない。かといって、それがレアケースだというわけではない……というのが恐ろしいところ。 「例えば、ストレスが過食に出るか拒食に出るか……というのは、サイコロの目のようなもので、どちらに出るかわからないわけです。同様に、うつに出るか、問題行動に出るかもわからない。僕は、サラリーマンの少なくとも8割がうつ予備軍であると見ていますが、それは同時に8割が〈不祥事予備軍〉でもあるということです」  従来、仕事のストレスとは「量的なストレス」(いわゆるブラック企業の過重労働など)、「質的なストレス」(責任が重すぎる、など)、そして「職場での人間関係」が3本柱だったが、これに加えて昨今では「将来性への不安」が大きな位置を占めるようになっている。今どきの会社員が感じるストレスのレベルは、上昇する一方なのだ。 「人間というのは、過度なストレスや疲労により判断力が下がります。脳機能は、理性→感情→本能の順に階層が分かれているわけですが、疲れてくると上の方からどんどんシャットダウンしちゃうんですね。だから、『ミスを隠蔽するためにウソをついたりすると、後々もっと大変な事態になる』みたいな想像力が働かなくなり、普段ならしないような行動にも走りかねない」  誰もが正常な判断力を奪われかねないほどのストレスにさらされている今、くだんのJTB社員を笑い飛ばすことは到底できないのではないだろうか。うつはうつで大変だが、休養とケアによって症状が改善すれば、職場復帰の道も残されている。一方、不祥事に転んでしまうと、最悪の場合は懲戒免職だ。そうでなくても、職場にい続けるのはかなり厳しい状況になるのである。 <文/HBO取材班>
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