その意味で、ドイツ銀行は再起するには非常に厳しい状況にある。予定では2017年には黒字に転じる計画があるそうだが、同銀行の主要業務であった投資部門が昨年度は12億ユーロ(1560億円)の損失を経常しているのである。よって、今後はこの部門での期待は出来なくなる。更に、米国や英国とのLIBOR(銀行間取引金利の不正操作)と制裁で127億ユーロ(1兆6510億円)の支払い義務を抱えており、昨年度はその一部の52億ユーロ(6760億円)を支払っただけである。更に、2万人以上の解雇を伴う補償金などで10億ユーロを(1300億円)を用意せねばならない。また情報器機の設備は古くなっており改善の為の投資で8億ユーロ(1040億円)が必要という。(参照:「
Kon Zapata」)。
更に、苦境を強いられる状況として、ギリシャの危機を筆頭とするPIGS諸国の問題が再燃する可能性があることだ。
ユーロ債権グループとの合意でギリシャは第三次支援金を受けたが、その交換条件として約束した同国の構造改革が一向に進んでいないのである。そして、つい最近も年金制度改革に反対して3度目のゼネストが実施されたという状態だ。シリザ政権になって、これが3度目のゼネストである。
ポルトガルの左派政権もユーロ債権グループから要請されている歳出削減策を実施せねばならないが、3政党から成る左派政権の結束は薄く、果たして削減策が実行出来るが疑問視されている。
イタリアも地方銀行の破綻が1月に発生して、同国の銀行部門に不信が生じている。さらにスペインは昨年12月に総選挙が実施されたが、どの政党も過半数の議席を獲得出来ず、新内閣の不在が50日も続いている。現在、社会労働党党首が新政権誕生を担うべく他党と交渉を重ねているが、新たに選挙になる可能性が強い。仮に総選挙になると、12月の選挙からおよそ5か月ほど新政権が誕生しない状態が続くことになる。現在、選挙前の政府が暫定政府として政権を担っているが、新しい政策などを決めて実施出来る権利は与えられておらず、外国からの投資も足踏み状態だという。
これら南欧のユーロ加盟国が問題を抱えている現状で、ユーログループ最大の債権国であるドイツはドイツ銀行を含め債権銀行として南欧に融資している。特に、今後のギリシャの行方は債権銀行にとって非常に気になるところである。金融専門家の間では、〈ドイツ銀行のことをリーマンブラザーズのヨーロッパ版〉と既に捉える見方も少なくないという。(参照:「
Estrategias de Inversion」 )
しかし、ドイツのGDPの20倍の取引額をもつドイツ銀行が破綻すれば、その影響はリーマンブラザーズの破綻時の比ではない。〈10の銀行あるいは15の銀行といった感じで他行も連鎖的に破綻を強いられるようになる〉可能性もあるという。さらには、ヨーロッパだけではその救出資金の調達も困難になるため、世界的に波及していく可能性も大きいのである。(参照:「
SilverDoctors」)。
<取材・文/白石和幸 photo by
Immanuel Giel (CC0 PublicDomain)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。