ハノイ出店が後回しになる理由は「南北における国民性の差」
――これまで外資の小売りや飲食店、例えばハンバーガーの「マクドナルド」やコンビニの「サークルK」、日系大手では「AEONモール」などがホーチミンに1号店を出していますね。普通、海外出店は首都が先になるかと思いますが、なにか事情があるのでしょうか。
「元々ベトナムは北と南で別々の国であったことの影響が強く、今でも商習慣に違いがあるからです。実務的なところで言えば、ハノイにはチルド・フローズンの営業倉庫がなく、時間帯によってはトラックが走行禁止になる区間もあるということも関係します」
――しかし、昨年からハノイが急激に変化しているように見えます。山中氏が駐在したおよそ20年前と比べてハノイはどんなところが変わってきたのでしょうか。
「確実に豊かになってます。例えば、2000年にハノイにはシャンプーがありませんでした。隣国のラオス人がタイから入手したシャンプーで髪の毛を洗ってる人を見て、なにをしているの? と言ったほどです。それくらい変わりました」
――豊かになったことで、ハノイ市民の購買意欲や購買力は上がってきているということなのでしょうか。
ハノイの旧市街などで見かける庶民生活は大きな変化は見られず、相変わらずベトナムらしいおもしろさがある
「かつて南の人は給料日に酒を飲んで、翌日にカネを貸してくれと言ってくるような豪傑がたくさんいました。北の人は金に汚く、がっちり貯め込んでいるとされる市民性です。ですので、ハノイ市民のそもそもの購買力や意欲はあまり変わっていないと思います」
――東南アジアが2010年ごろから全体的に景気がいいように見えますが、ハノイはどうでしょうか。
「ハノイも全体的に景気がよく、ハノイ市民の中間層も豊かになっていると思います。例えば、月給200~300米ドルの人が1200米ドルもするiPhoneを普通に持っていたり、2500米ドルするバイクに乗ることもあります。これだけ払える力が中間層についたということです」
――小売りや飲食が続々とハノイに進出している現在、ベトナムは全体的にオススメの投資先となり得るのでしょうか。
「私見ですが、ネクスト・チャイナとしてベトナム進出されている日系企業は増えていますが、成功しているところは少ないです。ましてやジョイント・ベンチャーで成功する企業は稀です。間違いなくタイ・プラスワンとして見据えた方がいいでしょう。インフラ整備ができていないのが現状なので、この国を製造拠点と考えるよりも物流拠点として考えた方が本当はいいんですが。よくタイのことを微笑みの国、カンボジアを幻の国と言いますが、それであればベトナムは残念な国と私は言ってます。また、私が顧客にベトナムを説明するとき、ハノイを平壌、ホーチミンをソウルと思ってくださいと言っています。平壌がソウルを治めて朝鮮半島を統一しているイメージをベトナムに当てはめると、どういう国かがなんとなくわかるかと思います」
まだまだ「ネクスト・チャイナ」には遠い状況にあるようだが、ターゲットと方針を誤らなければ逆にベトナムは製造業にとっては「タイ・プラスワン」として、また飲食店や小売業にとっては潜在的な力を秘めた市場でもあるということなのかもしれない。
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ファストフードのシェアNo.1とされるのは1998年に進出してきた「ロッテリア」でハノイでもたくさん見かけることができる
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2011年にハノイ旧市街で見かけた、どう見ても正規店ではなさそうな有名コンビニ
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NaturalNENEAM)