「偽装肥料発覚で有機農産物の信用失墜」はミスリード
秋田市の太平物産が製造し、JA全農が2014年に販売した約4万トンの有機肥料で、成分が偽装されて出荷されていたことが昨年11月に発覚。「有機農産物の信用が失われる」などとセンセーショナルに報じられた。しかしこの事件の影響を最も受けたのは「特別栽培農産物」であり、有機栽培農家は問題の肥料をほとんど使っていなかったことが判明した。
「今回の成分偽装は、報道内容と実際との間に落差がありすぎました。当初、『有機農産物の偽装』とか『有機栽培の信用問題』などとセンセーショナルに報じられましたが、有機農家、特に有機JAS農家でこの肥料を使っている人はほとんどいないはずです」
こう話すのは、食材宅配「らでぃっしゅぼーや」を立ち上げた有機野菜普及の第一人者、徳江倫明(みちあき)さんだ。
「問題の肥料が使われ、表示が問題となったのは、主に『特別栽培農産物』です」と徳江さん。
特別栽培農産物とは、化学肥料や農薬の使用を「慣行レベル」(一般的な農法)に比べて半分以下に減らして生産した農産物のことだ。窒素成分量を過小に表示した問題の肥料を使ったことで、窒素成分量が50%をオーバーしたことが調査で判明。特別栽培農産物として表示販売できなくなったのだ。
では、「信用失墜」と槍玉に挙げられた有機農産物ではどうだったのか。今回、有機栽培の現場で使われた問題の肥料は、秋田県内の4認定事業者における米および大豆の13ヘクタールに過ぎないことが明らかになっている。
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/151120.html
つまり被害規模で見た場合、実害が及んでいるのはほとんどが「特別栽培農産物」として出荷するはずだった農産物だった。「有機農産物の信用失墜」という報道はミスリードというわけだ。
それでも限定的とはいえ、有機農産物の栽培に成分を偽装した肥料が紛れ込んでしまったのは事実だ。そこで、今回の問題を受けた対応も始まっている。
肥料などの資材が有機JAS栽培で使えるかについて適合性を評価する民間団体「有機JAS資材協議会」の資材数が、近く従来の約300件から倍の600件ほどに増える見込みだ。同団体が適合性を評価した資材の使用を更に徹底することで、問題の再発を防ごうというものである。
そもそも、国内農産物に占める有機の割合は0.25%にすぎない。有機農産物で被害が極めて限定的だったのは、有機農産物では「有機JAS認証制度」にのっとり、第三者認証機関が栽培の段階からチェックを行い、認証を得たものが出荷されるしくみが採用されているからだ。
今回の肥料成分偽装事件はむしろ99.75%、つまりそれ以外の一般農産物の表示・安全をめぐる問題なのである。
<取材・文/斉藤円華>
隠された?「特別農産物」での偽装肥料使用
一般農産物よりもチェックが厳しい有機栽培
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