「社会主義者」を自称するサンダース候補の猛追で前代未聞の事態となった米大統領選

「サンダース躍進」を報じぬ日本メディアの鈍感さ

 確かにトランプは、レイシストでありポピュリストなので警戒する必要はあろう。しかしトランプのように激しい言葉を並べ有権者の興味を引こうとする候補者が共和党の候補者レースで優位に立つのは、ここ20年のトレンドと言っていい。古くはニューエット・ギングリッチ、最近ではサラペイリンが記憶に新しい。つまり、トランプのあのやり方は別段新しくはないのだ。  一方で、民主党でのサンダース躍進は、極めて「新しい現象」と言えるだろう。先月末に本サイトに掲出した「リベラルは日本でも復権するか。学者ら、民主に政策提言へ」でも触れたように、バーニー・サンダース候補はことあるごとに「私は社会主義者だ!」と自称し、「社会主義」なる言葉を売り文句にする候補者だ。そんな候補者が、一躍、候補者レースでトップに立つのは前代未聞。こんなことはいまだかつてなかった。無論、アメリカには社民主義を標榜する政党も、さらには共産党も存在している。そしてそれらの政党はこれまでも泡沫候補扱いながら、大統領選挙に候補者を立ててきた。  だが、今回は違う。  ことあるごとに「私は社会主義者だ」を売り文句にしている人物が、泡沫候補どころか、二大政党の片方で首位を取ろうとしている。しかも、実績も知名度も抜群のヒラリー・クリントンを抑えて! 「資本主義の本国」ともいうべき、あのアメリカで「社会主義」という言葉が肯定的に捉えられ、大統領選挙の主要トピックになったのだ。この話題は驚きを持って迎えられるべき歴史的な出来事だというべきだろう。  にもかかわらず、日本のメディアは、「トランプ躍進」の報道ばかり。まるで民主党候補者レースでのサンダース候補の躍進はないもののように扱われている。選挙予想めいた報道でさえ、「もしトランプが候補者になってヒラリーと対決したら」という枠組みのものしか見当たらない。  日本のメディアは「あのアメリカで、社会主義者が好意を持って迎えられている」という事実を直視できないのか、はたまた、その事実に「驚く」感度を持っていないのか… どう考えてもやはり不思議と言わざるをえない。  思い起こせば、ヒラリー・クリントン陣営は、2008年の大統領選挙でも「圧倒的優位」の下馬評がありながら、民主党内候補者選びがスタートすると、当時は無名だったオバマの追い上げを喰らい、候補者指名を逃した経験を持つ。今回もその悪夢がよみがえりつつあるのだ。  そうした意味でも、クリントン陣営を猛追するバーニー・サンダースの動きに目が離せない。 <取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie photo by Gage Skidmore on flickr(CC BY-SA 2.0))
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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