ただ、明治神宮外苑イチョウ並木通りにある1号店には、偶々オフィスが近くなので、行列の少ない時間帯を狙って何度か行っているのですが、個人的には、味自体は「もう他のハンバーガーは食べられない」というレベルではなく「普通に美味しい」といった感想を抱いています。もちろん味覚は好みですし、味自体をあれこれ言いたいのではなく、メジャーチェーンの300円、気合いの入ったインディーズの1000円と比しても、コスパとしてバランスが取れている、といった感じです。
どこを相手にしてもコスパの取れる商品を作ること自体は決して簡単なことではない一方で、マーケティングが発達した今の時代、中間層というのは下手すると何かと中途半端になって、上と下のプレイヤーの草刈り場になるイメージもあります。そこで、「スターバックスコーヒー」の成功でも注目された「
経験価値」というマーケティング戦略が「シェイク・シャック」においても大切になってきそうです。
「経験価値」とは、製品やサービスそのものの持つ物質的、金銭的な価値ではなく、その利用経験を通じて得られる効果や感動、満足感といった心理的・感覚的な価値で、①SENSE(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を通じた経験)②FEEL(顧客の感情に訴えかける経験)③THINK(顧客の知性や好奇心に訴えかける経験)④ACT(新たなライフスタイルなどの発見)⑤RELATE(特定の文化やグループの一員であるという感覚)により構成されるとされています。
これらを一つずつ当てはめていくことも可能ですが、具体的に、サードプレイス(家とも職場とも違う第3の場)を標榜した「スターバックス」や「東京ディズニーランド」「旭山動物園」なんかをイメージしてから、上記の構成を眺めた方が実感が湧くかと思います。かの意識高い系の代名詞として近年名高い「
スタバ&Macでドヤ顔」もこれの副作用と捉えてみることもできるかもしれません(笑)。
また「シェイク・シャック」においては「顧客価値」はテクニカルな意味合い以外にも大きな意味を持ちます。それは米国1号店が、荒廃して人が寄り付かなくなっていたマディソン・スクエア公園にコミュニティを再生するための社会貢献活動の一環だったという成り立ちです。近所の顔見知りが集まって会話を楽しむ古き良き時代のコミュニティのハブとしてのハンバーガーショップを現代に甦らせたい、そういったビジョンは行列を整理している店員の親しみやすい対応からも伝わってきます。
ちなみに、10数カ所あったとされる1号店の候補地から、明治神宮外苑イチョウ並木が選ばれたのも「ビジネス街の中にある公園」の雰囲気がニューヨークのマディソン・スクエア公園に似ていたため、だそうです。この辺りにも思い入れを感じますし、そこを用意する辺りもサザビーリーグのブランド理解の高さを感じさせます。
以上のように、サザビーリーグというパートナーを得て、まずは順調なスタートを切ったかに見える「シェイク・シャック」、東京五輪が開かれる2020年までには日本国内で10店舗まで増やす計画のようです。ただ、どん底とはいえ巨人マクドナルド(3000店舗以上)やモスバーガー(1000店舗以上)といった国内のハンバーガーショップとは規模では比較になりませんし、再上陸した「タコベル」や「カールス・ジュニア」といった同様の海外からの新参入組もいます。飲食冬の時代に、サザビーリーグは今回も「スタバの再来」を演出できるのか、その新たな挑戦が楽しみです。
決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。
【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『
SiteStock』や無料家計簿アプリ『
ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『
NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。