タイ唯一の電車路線であるBTS。しかし、渋滞がひどい上に駅前には大したスポットがないので、駅近は重要ではない
バンコクの部屋探しはこのように日本のそれとはだいぶ違うことがわかる。日本と同じように物件を探すと、逆に失敗するケースもあるのだと石川社長は語る。
「例えばバンコクでは
駅近である必要はありません。むしろ駅に近い物件はメリットが駅近だというだけしかないことがよくあります。奥まった場所にあってもなんら問題はないのです」
日系企業駐在員が多いトンロー地区は昔から日本人が集まってくる地域だ。和食店や日本人向けのスーパー、日本語通訳常駐の総合病院があるし、なにより日本人学校の送迎範囲内でもある。しかし、トンローの中でも日本人向けスポットは大体奥まった場所にある。メインストリートになるスクムビット通りにタイ唯一の電車路線であるBTSの駅があるが、その辺りには飲食店くらいしかない。そして、渋滞も激しいのにも関わらず家賃は高い傾向にある。タイはタクシーが安く、数も多い。また、コンドミニアムなどが駅までの無料送迎サービスを用意しているし、そもそも駐在員には自由にできる車が与えられていることが多い。奥まっていてもなんら不自由はないというわけだ。
「それから、
部屋が南向きであることも重要ではありません。景観を重視した方がいいです」
タイは陽射しが強いので、必ずしも南向きがいいわけではない。むしろ北側でも時期によっては陽が当たるので問題ない。部屋の窓の向かいに商業ビルや別のコンドミニアムがあったりと、景観が悪いほうがのちのちストレスになるからである。
また、タイは日本のように近所への気遣いが少ない。空き地や寺が近いと、年に何度か祭りのため深夜まで大音量でタイ演歌が流れることもある。これは事前に調べたり、仲介業者の情報に頼るしかない。
「事前に周辺地域の問題点やメリットを調べ上げ、賃貸人フィードバックするのがタイの不動産仲介業の最大の仕事です。タイはネット・スピードが地域で違いますし、雨季には冠水する場所もあります。オーナーの性格や建物自体の質など、常に情報収集は欠かせません」
しっかりした不動産仲介業者の持つマクロな情報は個人で収集できるものとはレベルが違う。ただ、ごく限られたミクロな部分だけは石川社長でも情報収集力に劣ることもあると苦笑する。
「それは
駐在員の奥様方の情報ですね。地域住民や在住日本人とのコミュニケーション能力が高いので、彼女たちのテリトリー内の情報はリアルタイムで更新されています。かなり貴重なネタが多いですよ」
バンコクは不動産投資ブームで家賃が年々上がっている。そのため、駐在員の一部は家賃補助にプラスαを自分で払っているケースもあるほどだ。
しかし、バンコクの某不動産仲介会社の営業担当者はこの投資ブームももう終わりと見ている。
「実際、2015年に入ってから坪単価が下がり始めている地域も出てきています。バンコクは供給過多に陥っているので、早ければ2016年の半ばくらいに家賃は落ち着き始めるでしょう」
日本人投資家もタイの不動産に投資をしている人は少なくないが、これから回収困難になっていく可能性がある。また、家賃の数か月分が報酬になる仲介業者も、過当競争と相まって苦境に立たされることになるだろう。しかし、反対に賃貸で住まいを探している人にとってはこれからがおいしい時期になる。これまでは手の出なかった高級な住まいが、比較的安価に選択できるかもしれないのだ。
家賃下落で仲介業者が苦境に立たされるのか、逆に日本人在住者の増加で薄利にはなっても売り上げは上がるのか。2016年はタイの日系不動産仲介業者の節目になるかもしれない。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NaturalNENEAM)取材協力:石川商事
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