「低予算にも程がある!」そんな仕事との向き合い方
2015.12.31
「期待してるぞ!」と威勢良く盛り上げる割に、予算の話になるとダンマリを決め込む人がいる。風呂敷を広げるのは簡単だが、見合うカネを用意するのは容易ではない。低予算というハンデを乗り越え、首尾良く成果をあげるには、どうすればいいのか。
今回は佐々木蔵之介主演で映画化され、2016年には映画続編が公開予定の『超高速!参勤交代』(土橋章宏著/講談社文庫)から打開策を探りたい。本作は、あらぬ疑いをかけられ、超短期間で江戸に参勤せざるを得なくなった、東北の小さな藩の奮闘を描いた物語だ。時間も金もない中、藩主・内藤政醇(まさあつ)と家臣たちは知恵を絞り、難局を切り抜けていく。
主人公・政醇は困っている人を放置できない性分で、筋金入りのお人好しでもある。東北一帯が大飢饉に見舞われた際は家老の反対を押し切り、隣の藩に金や食糧を分け与えた。財政難を心配する家老が年貢の値上げを提案しても「我らが耐えれば良いのじゃ」と一蹴する。さらに「算盤ばかりいじらず、たまには剣でも振れ」と諭す。
どんな仕事にも資金繰りの苦労はつきもの。しかし、カネの算段ばかり考えていると自然と視野が狭まっていく。悩んだときはあえて、いつもと違う行動をとりたい。行動を変えると、視点も変わり、気づきを得やすい環境が整う。相乗効果で妙案も浮かびやすくなるというものだ。
藩の金庫番を務める家老・相馬兼継は、藩の財政の話となると、たびたび我を忘れる。帳簿を片手に、藩主である政醇を厠(かわや)まで追いかけるほど。政醇は「飯でも食いながら、世の腹づもりを話しておきたい」となだめる。じつは、この“腹づもり”は嘘っぱち。“飯を食えばそれなりに気分は良くなる”から、まずは食事をさせて、相馬を落ち着かせようという作戦だった。
“飯でも食いながら”は、現代でも重宝されているビジネスコミュニケーションのひとつである。ざっくばらんに話し合うとともに、お互いへの親愛の情も深められる。相手はもちろん、自分自身の焦りをなだめる、冷静に要望をすり合わせるのにも役立つ。
絶対絶命の大ピンチでも、主人公・政醇は場違いなほど明るい。案内人・雲隠段蔵とたった2人で100人の敵に囲まれても、ひるまない。「我らにはまだ戦う力がある。それをひたむきに振るえばよい」と笑顔すら見せる。
低予算にも程がある。でも、やる意義はあるし、やりたい。そんな案件に出くわしてしまったとき、思い出したいのがこの政醇のセリフだ。うまくいくかどうかはさておき、“戦う力”が残されているなら戦う。迷いなく前進すれば、おのずと道もひらける。
予算が少ないことは制約条件になるが、必ずしも不利になるとは限らない。制約があるからこそ、必死に知恵を絞り、これまでにないアイディアが生まれるケースもある。「必要は発明の母」ということわざではないが数多の理不尽は“妙案の父”になりうるのだ。
<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『超高速!参勤交代』(土橋章宏著/講談社文庫)―
<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
「算盤ばかりいじらず、たまには剣でも振れ」
「誰であれ、飯を食えばそれなりに気分は良くなる」
「我らにはまだ戦う力がある。それをひたむきに振るえばよい」
ハッシュタグ