ハウス食品にとっても子会社化のメリットは大きい。
「まず取得価格が格安です。TOB時のプレミアムというのは20~30%が通例ですが、今回は直近3カ月の終値ベースで12.59%なのです。そして、レストランチェーンを手にしたことで、原料製造から物販・飲食店まで抱えることになりました。これはアパレル業界でいうところのSPAと同じ形態であり、消費者の嗜好に素早く対応できるのが強みです」
最も注目されるのは海外進出だと安部氏は指摘する。世界地図の通り、CoCo壱番屋は海外にも多数の店舗を構えている。
「ハウス食品の事業別売上高を見てみると、国内事業である香辛・調味加工食品事業は売上が頭打ちにある一方、海外事業は伸びつつあります。地図を見ると、特に中国でCoCo壱番屋の店舗数が多いことがわかります。中国は人口13億の世界最大の市場、すでにハウス食品もカレーを人民食化すべく働きかけています。こうした経営戦略を共有できていることも、買収を後押ししたといえるでしょう」
中国でもSPA形態が威力を発揮しそうだ。
「小売店でカレールーを販売するだけでなく、レストランも出店すれば、認知度アップも加速するというシナジーが生まれますね」
ある意味、相思相愛の買収だが、不安要素がないわけではない。
安部徹也氏
「日本企業のM&A成功率というのは3割程度というデータもあるほどで、目標達成は簡単ではありません。壱番屋は創業者・宗次氏の下、家族的経営で業績を積み上げてきた会社です。経営システムもFC方式ではなく、店舗オーナーになるためにはCoCo壱番屋で修業を積まなくてはなりません。現社長も19歳からアルバイトとして働いてきた叩き上げの方ですから、“ココイチイズム”ともいうべき文化があるはず。ハウス食品が壱番屋の企業文化を尊重しないようなら、社員の生産性も低下する恐れがあります。企業文化などというと精神論のようですが、実際、モチベーションは欠かせない要素なのです」
海外でもジャパニーズカレーの人気は高いという。アジアにカレー王国が建国される日も近い!?
【安部徹也氏】
経営コンサルタント。MBA Solution代表。マーケティング、MBA人材育成を得意分野とする。all about japanのガイドも務める。