王者・ワタミが負けて、鳥貴族が勝った理由とは?

 現在、居酒屋業界で急成長を遂げている大手焼き鳥チェーンの『鳥貴族』。’14年7月にはジャスダックに上場し、その1年後には東証2部にスピード昇格。近い将来の東証1部入りも囁かれるほどだ。  一方、対照的なのは『居食屋「和民」』を中心とした居酒屋ブランドを展開するワタミ。’00年代は居酒屋業界のトップチェーンとして業績を伸ばしていたが、売上高は近年下落を続け、店舗数も最も多かった’11年の646店から140軒以上も減少している。  売上だけを比べれば、まだワタミが優勢だ。とはいえ、鳥貴族は10年間で売上を14倍も伸ばしており、その差は年々縮まっている。  ちなみにワタミ凋落の一因としては、’08年に起きた従業員の過労自殺、それを労災と認めようとしなかった同社の対応にあると見る向きが多い(※’12年に労災認定を受けた)。さらに創業者で現参議院議員の渡邉美樹氏の言動も世間の反発を呼び、ブラック企業とのイメージが定着。メディアやネット上でのバッシングが大きく影響していると言われている。 ワタミと鳥貴族の売り上げ比較表 だが、船井総合研究所の二杉明宏氏は別の原因を指摘する。 「近年の居酒屋業界を含む、外食産業全体のマーケットを見た場合、’08年のリーマンショックと’11年の東日本大震災の後、売上が一時的に停滞しています。ただし、それ以上に居酒屋業界は構造的な問題を抱えており、ワタミの業績悪化もこれが大きく関係していると思われます」

ワタミ不振の理由は構造的な問題だった!?

二杉明宏氏

二杉明宏氏

 それは大手ならではの同社の業態にあるという。 「ワタミのような上場企業は増収増益を目標とすることを常に義務づけられており、売上が落ちたら経費削減をしてでも利益を確保しなければなりません。そうした中で人件費と食材費がカットされた場合、居酒屋としてのクオリティはさらに低下することになります」  例えば、売上が下がったために6人いたスタッフを4人に減らしたとする。6人シフトの時には焼き場専属のスタッフを1人つけられたが、4人シフトになると、このスタッフは焼き場以外の仕事もこなさなければならなくなる。こうなると、焼き場のオペレーション力は低下する。次に、低下したオペレーションでも提供できるメニューの絞込みが始まる。すると、焼き場の売上が低下するため、ますます人を配置することが困難になる。場合によっては、食材も経費削減でワンランク下のものを使わざるを得なくなり「味が落ちた」と悪い評判が立つというわけだ。 「この負のスパイラルに陥ると抜け出すのは非常に困難です。ワタミグループの中心ブランドである和民は、刺身から焼き鳥まで何でもあるメニューの幅広さがウリでしたが、それは半面これといった強みを持ちにくいということです。このような業態は総合居酒屋と呼ばれ、’00年代の業界の主流でした。ところが、今は焼き鳥が食べたければ鳥貴族、海鮮が食べたいなら磯丸水産といった具合に特定のジャンルに特化した専門店居酒屋と呼ばれる居酒屋が台頭。特定のメニューに関しては、総合居酒屋より質の高い料理を提供してくれるので、かつて総合居酒屋で飲んでいたお客が、こうした後発の専門店チェーンに流れていったわけです」  専門店居酒屋の代表格である鳥貴族は、焼き鳥に特化してメニュー数を絞ることで、専門ジャンルにコストを集中投下。全品280円均一という低価格での提供を実現させている。
鳥貴族の主力メニューの「貴族焼」。

焼き鳥に特化したことで他店と差別化!鳥貴族の主力メニューの「貴族焼」。通常の倍サイズで、肉質もジューシーだ

「飲食ビジネスにおいて後発プレーヤーは、先発チェーンのいい部分を取り入れつつ、逆に彼らが持っていない部分を強みにすることができます。鳥貴族は総合居酒屋にせず、あくまで焼き鳥だけで勝負しており、また企業規模が拡大したときにありがちな複数業態の開発に手を出していません。あくまでも本業の焼鳥に経営資源を集中させている。それとセントラルキッチンにしないで、いまだに各店舗で一本ずつ串打ちを行っています。この辺のこだわりは同社の大倉忠司社長が繁盛の原則をよく理解しており、自社の強みである焼鳥の鮮度戦略をきちんと持っているからだと思います」  鳥貴族は店舗数2000店舗を目標に掲げており、当分はハイペースな出店攻勢が続く見込みだ。 「串料理は世界中にあり、焼き鳥は外国人にも人気です。しかも、鶏肉だから宗教の壁もない。海外進出の勝算もあり、今後も業績を伸ばしていくと予想できます」  焼き鳥一本で勝負したのが、好調の秘密なのかもしれない。 【二杉明宏氏】 船井総合研究所・上席コンサルタント。専門は飲食業界で、居酒屋業界にも精通。大手チェーンからローカルチェーンまで多数のコンサルティング実績を持つ。
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