南米で存在感を増すトヨタ、「ラテンNCAP」で最高評価を獲得

白石和幸

アルゼンチンでも人気が高いハイラックス

 アルゼンチン・トヨタのハイラックスが2015年度「Latin NCAP」で最高評価5スターを獲得したことが12月の現地紙『iProfesional』や『AutoBlog』などで報じられた。

「NCAP」というのは1979年からアメリカで実施されている自動車安全評価のことで、「Latin NCAP」はそのラテン版である。特に評価の重要な基準にされるのが衝突時での乗車している人の安全性である。

アルゼンチン現地生産の車両が評価された意味

 今回のハイラックスの受賞が栄誉とされるのは、それがアルゼンチン工場で生産された車であるということだ。これは日本で生産されているハイラックスの安全性と同等のレベルでアルゼンチンでも生産されているということを証明したことになる。しかも同テストに提供されたハイラックスは第8世代のもので、11月に市場に出されたばかりであった。同車は乗車している大人の保護評価が最高レベルの5スターそして幼児の保護も同様に5スターと評価された。頑丈な車体に3つのフロントエアバッグそして安全ベルトの衝突時のインパクトから守る保護能力と同様に側面からのインパクトから守る保護能力も高いと評価された。

 また、トヨタRAV4と三菱パジェロ(ラテン名:モンテロ)スポーツが同様に5スターと評価された。RAV4は日本製で、パジェロはタイで生産されたものだという。
 その後に、4スターの評価を得た車がヒュンダイ・クレタ(インド製)、フォルクスワーゲン・フォックス(ブラジル製)、日産ベルサ(生産国不明)とマーチ(ブラジル製)である。

 上記の7車は大人の保護評価が5スターと評価されても、後座席の幼児の保護という面においてはハイラックス以外はどれもoneランクかtwoランク低く評価されている。

 ハイラックスは大人と幼児の保護がそれぞれ5スターと評価された。フォルクスワーゲン・フォックスの場合は幼児保護は2スターである。その理由はアイソフィックス(ISOFIX)の取付機能が用意されていないことや、安全ベルトが凡ゆるポジションになる為の機能不足とされている。また日産マーチも幼児保護という面で安全ベルトがポジションに制約があり機能不足、また助手席エアバッグの取外し不能、同様にアイソフィックスの取付機能が用意されていないという点で1スターという評価が下された。

アルゼンチン経済がどん底の時期に「発展の可能性」に賭けたトヨタ

 今回の衝突耐久テストに提供されたハイラックスは今年11月に販売が開始された。ブエノスアイレス県サラテ市の工場で生産された車だ。1997年3月21日にトヨタが世界にもつ29番目の工場として400人の従業員でスタートした。1997年のアルゼンチンと言えば、1990年代前半の高度成長に陰りが見え始めていた頃である。1980年代の軍事政権と放漫財政から1990年代に入って当時のシリア移民2世のメネム大統領による新自由主義の導入と、ドルとペソの交換レートと同一にさせて外国からの投資も増加。しかし、元々インフレ体質のアルゼンチンは90年代後半になるとインフレの上昇や貿易で一番大事な隣国ブラジルのレアルの切下げなどで輸出競争力を失い、財政も赤字となり、2001年には再度デフォルトを行なうという事態になった。正に経済が衰退している時にトヨタはアルゼンチンに工場を建てたのであった。それは国力あるアルゼンチンが本来もっている発展の可能性に賭けたようだ。

 ラテンアメリカ・トヨタのCEOスティーブ・アンジェロ氏がディーラーや自動車業界ジャーナリストらを招いての8世代ハイラックスを紹介する発表会の席で〈「トヨタは販売が急成長することには関心がない。関心があるのは時間をかけての継続的な成長だ」〉と述べたように、経済低迷にあるアルゼンチンで辛抱強く品質の高い車づくりに専念した賜が現在のアルゼンチン・トヨタである。2000年にはハイラックスを年間5万台を生産するまでになり、その後〈9億ドル(1兆円)を投じて現在年間14万生産〉するまで成長した。〈生産台数のほぼ70%はラテンアメリカ市場への輸出〉だ。近い将来米国への輸出も期待されている。それはアルゼンチン•トヨタの設立当初からの夢である。(参照/『LA VOZ』、)(『Infoaoto』)

ハイラックス生産地であることを誇るサラテ市の人々

 ラテンアメリカでのハイラックスの普及率は非常に高くサラテ市の市民は、ラテンアメリカとカリブ海のどこでも見かけるハイラックスが作られる街としての誇りを持っており、〈私の(住むサラテ)市でハイラックスが作られている」ということで自らのアイデンティになっている〉という。そして同社社長のエレロ氏は8世代ハイラックスの発表会の席に臨んで〈「ハイラックスを凌ぐ車は別のハイラックスだけである」というのが(会社の)モットーである〉と述べて新しいハイラックスを紹介したという。(参照/『El Debate』)。

 ただ、いま、アルゼンチン経済は大きな変革期にある。そう、先日の選挙で勝利を収めたマウリシオ・マクリ新大統領が12月10日に就任したのである。
 彼が選挙キャンペーンで公約したペソとドルの二重レートの統一化が近く実現されると噂されている。市民はペソとドルの二重レートの中で日常生活を余儀なくさせられている。この統一化を実行するにはペソの切下げが必至で、およそ20%の切下げが予測されている。低迷している市場で価格が既に高くなっている車が対ドルで更に高くなることに国内のディーラーは販売が更に低下することを恐れている。しかもアルゼンチンで生産される車のパーツの8割は輸入に依存している。その輸入コストも上昇することになる。となれば、好調のトヨタにも打撃はあり得るだろう。
 ただ、マクリ新大統領は保守派で、経営者の間にも味方が多い。今後どのようなたずな捌きでアルゼンチン経済を立て直すか注目していきたい。(参照/『iProfesional』)。

<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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