気仙沼市の復興を阻む「人口減少・高台移転・巨大防潮堤建設」

東日本大震災から3年、マスコミ報道もかなり少なくなってきているが、状況はそれほど変わっていないという。震災復興は今どうなっているのか? 防潮堤は本当に必要なのか? 現地の声に耳を傾けてみた。

<気仙沼市>大打撃を受けた漁業に防潮堤が追い打ち!?

伊藤祐喜さん

日本国際ボランティアセンター職員の伊藤祐喜さん。地域振興や仮設住宅入居者・在宅被災者への支援を続ける

 被災地の中には、集団移転が必要な地域もある。気仙沼市・鹿折地区はもともと過疎化が進んでいたうえ、津波被害で人口が激減。230世帯いた住民は、70世帯にまで減少した。さまざまな理由から浸水した家々に住み続けている「在宅被災者」は、周囲に隣人が少なく孤立しがちだ。日本国際ボランティアセンター(JVC)震災支援担当の伊藤祐喜さんは「鹿折地区の集団移転は、移転先がもともとの集落に近く、当事者の意思が尊重される住民主導型ではありますが、それ故に支援が必要という面もあります」と語る。 「いざ移転するといっても、建築関係の知識も経験もなく、移転先の土地の広さは限られています。これをどう使うかを住民の方々だけで決めるのは非常に困難です。JVCでは建築や町づくりの専門家を1か月に一回程度派遣し、住民の方々の意見調整を行い、彼らの要望が反映された移転計画の作成のお手伝いをさせていただきました」。  ’12年4月からの専門家派遣のかいあって、鹿折地区の集団移転では、住民同士の合意形成に至っている。もともとの地域のコミュニティを軽視した強引な移転計画や、住民同士の合意形成の難航も多い中、当事者の意思を尊重し、その具体化を支援することは重要な「ソフト支援」だ。また、住民の生業支援も復興には不可欠。気仙沼市は水産業が盛んな地域で、JVCが活動する鹿折地区・四ケ浜はカキやホタテ貝、ワカメやコンブの養殖が行われていたが、津波で養殖業者は大きな打撃を受けた。 「こうした状況を受けて、’12年の2~4月にワカメ収穫作業への人手を集め、養殖業の再開を支援してきました。多くの養殖業者の方々が仕事を再開した昨年からは、春の収穫シーズンに合わせて、ワカメ養殖業の見学・体験ツアーを開始し、県外の人々に四ケ浜に来てもらっています」(伊藤さん)  全国の他の地域と同じく、高齢化・後継者不足に悩まされていた四ケ浜の養殖業者たち。震災による地域の人口減少は、状況をより深刻なものとしている。「ツアーを通して、風光明媚で豊かな自然の恵みを持つ四ケ浜の魅力を伝えられたらと願っています」(同)。地域の水産業の復興は、日本の食文化を支えるうえでも重要なのだ。
三浦友幸さん

震災後の奥尻島を訪れた三浦友幸さんは、「防潮堤建設は、震災復興の一番最後でよかった」との声を数多く聞いた

 気仙沼市の街づくりを担うNPOで活動する三浦友幸さんは、総額8000億円の巨大防潮堤見直しに取り組んでいる。 「高台移転と巨大防潮堤建設が同時並行で進む地区は少なくなく、人が住めなくなった土地を守るために防潮堤を造る“二重投資状態”で必要性は乏しい」と語る。防潮堤を造ったとしても、守られるのは“誰も住んでいない土地”ということになってしまう。  三浦さんと防潮堤見直しに取り組む畠山信さん(NPO法人「森は海の恋人」副理事長)も、景観破壊と漁業への悪影響を指摘する。 「陸前高田市の広田湾は気仙沼と同じくカキの養殖が盛んでしたが、巨大防潮堤や高台移転の工事ラッシュで赤土が流出。陸と海も分断される。漁業への悪影響は避けられないでしょう」 【気仙沼市】 震災での死者1041人、行方不明者236人。被災世帯は9500世帯。市中心部の街づくり計画が防潮堤をめぐる合意形成で遅れ、重要産業である水産業の拠点、気仙沼漁港の復旧完了時期も「’15年内」から’16年度以降にずれ込む見通し 取材・文・撮影/志葉 玲 横田 一
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