タダで海外に行けるラクな副業!? 「ハンドキャリー・ビジネス」の現実

我妻伊都

ハンドキャリーの荷物は当然ながら一般客と同じところで受け取る

 時々海外で他人の荷物を運び中から麻薬や覚せい剤が見つかり逮捕され死刑判決を受けたなどのニュースがある。俗に言う「運び屋」と呼ばれる人たちだ。  それらと同じようなイメージを持たれるので困ると語るのは、東京都内で国際ハンドキャリー専門会社を経営する男性だ。 「たまにテレビのバラエティ番組などで”タダで楽して海外へ行ける方法”としてハンドキャリーが紹介されることがあります。事実ではないのですが、タダというインパクトとテレビの影響力は強いので放送直後から求人の問い合わせが鳴りっぱなしになり、本来の顧客からの業務依頼が受けられず迷惑しています」と男性は苦笑する。  そもそもハンドキャリーとはどんなビジネスなのであろうか。

緊急の荷物を「乗客の手荷物」として運ぶ

「ヤマトや佐川の国際緊急運送と考えてもらえればいいです。航空貨物では間に合わないお荷物を人間が直接、手荷物として現地まで運び確実にお渡しする運送方法です」(同)  なぜ航空貨物だと間に合わないのかというと、積載する旅客機の荷物は搭乗客から優先されるため、たまたまその日、大量の荷物を持つ顧客がいたりすると航空貨物は後回しとなる。そのため、確実に載せられる保証がないのだ。例え、一旦ギリギリで載せられても出発直前に航空券を購入した乗客の預け荷物が優先されるため、航空貨物は下ろされ次の便となることもある。だからこそ確実に搭乗できるよう「乗客の手荷物」として運べるハンドキャリーの需要が出てくるわけである。  運ばれる荷物は、主に緊急時にかかわるもので、緊急出庫や生産遅延など企業にとってはエマージェンシーな状況が多い。荷物の種類は、自動車部品や工業製品、季節物の衣類サンプル、中には書類数枚というケースなどさまざまだ。  ハンドキャリービジネスは、グローバルで展開する企業の生産活動を縁の下で支える隙間産業と言える。だが、費用は決して安くない。  前出のハンドキャリー会社代表によると、たとえば、中国から日本へ運ぶ場合、多くが前日など直前に発生するため航空券がエコノミークラス正規料金であることが多く、顧客へ請求する運搬費用は25万円から30万円となる(通関費用や超過料金、関税などは除く)。タイからアメリカとなると1回で50万円を超えることもあるそうだ。

行き先は中国やタイが主流。ベトナム行きも急増中

国によっては手荷物カートが有料な国もある

 ハンドキャリービジネスが盛んな場所は、日系企業や関連工場が多い国だ。日本はもちろん、中国やタイ、最近ではベトナムでの需要が急拡大している。  中国は、工場が多くASEANとも比較的近い上海や広州発が多い。タイはASEANの拠点とも言える存在で、タイからマレーシアやインドネシアなどへ飛ぶことが多い。近年はベトナム発も急増しており現地に事務所を構える日系ハンドキャリー会社も誕生している。  また、仕事は大量にあっても継続することが難しいこともあるという。その理由は人材の確保だ。 「誰でもできると誤解されることが多いのですが、実際は、1人で外国へ行くわけですから飛行機の遅延や荷物の破損などのトラブルもあります。そんな情況でも冷静に”ホウ・レン・ソウ”を徹底し、顧客が求める最善を尽くしてもらう応用力が必要です。当然、交渉するための英語力も必須です。  たとえば、タイなどでいつでも動ける日本人となると人材の質は下がります。かと言って信頼できる駐在員や会社員は突然の連絡で動くのは難しくその点が難しいです」(前出の経営者)。  中国上海で中国人女性と結婚してインターネット販売業をしている日本人Aさんは、本業の他に副業としてキャリアーも兼務する。ハンドキャリーの依頼を受けるとすぐに空港へ飛んで行くこともあるという。ハンドキャリーでの年収は、日本円で100万円ほど稼ぎ、多い年は200万円を超えた年もあるそうだ。  1回あたりの報酬は、1泊2日で1万円から3万円ほどで、依頼会社によって、別途ホテル代が出たり、報酬に込みだったりとまちまちだ。  Aさんは、渡航先の国で業務終了後に雑貨や免税品を購入して中国最大のインターネットショップサイト「淘宝」等で中国国内向けに販売している。そのためハンドキャリーのついでに仕入れもと一石二鳥で本業へ賢く生かしているのだ。

パスポートが「強い」日本人ならではのビジネス

 日本人がハンドキャリービジネスを行えるのは、パスポートの力によるところが大きい。2015年、英国機関からの発表では、日本のパスポートは171の国と地域へビザなしで渡航できる。つまり、明日でもパスポートさえあれば、ほとんど世界中の主要国へ行ける恵まれた存在なのだ。  しかし、現在45の国と地域に留まる中国のパスポートが今後ビザなし渡航が拡大していくと今の日本人の特権とも言えるメリットを奪っていく可能性がある。事実、中国広州や深センでは、香港人のキャリアーが多く雇われ毎日のように飛んでいる。香港のパスポートは2014年時点で152の国と地域へビザなしで行け、しかも香港人は、平均的な英語力が高く、渡航先でのトラブル対処にも強いという。  時には1人で100kgを超える荷物を運ぶこともあるというハンドキャリー。タダで海外へ行けると舐めてかかると痛い目に合うやもしれない。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma
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