使い捨てにはならない、真に上司に頼られるための処世術

 頼むときは調子よく盛り上げるが、相手が引き受けた途端、対応がズサンになる人がいる。「頼れるのは君だけ」と懇願した割に、さほどの感謝も示さず、「今度メシでも奢らせて」はもちろん、リップサービス。この手の上司や先輩に体よく利用されている気がしたらどうすればいいのか。 打合せ 今回は若き日の伊藤博文の活躍を描いた『シュンスケ!』(門井慶喜/角川書店)から打開策を探りたい。主人公・伊藤俊介(のちの伊藤博文)は農家出身ながら、才能を見出され、吉田松陰率いる松下村塾に入門。桂小五郎や高杉晋作、井上聞太らとともに明治維新に奔走する。

「身が軽いのは美徳です」

 主人公・俊介は訪れた松下村塾で、旧友・栄太郎に会う。栄太郎は吉田松陰の命で江戸に出発するところだった。松陰は「半日怠けていたら、再会は何年後にもなるところだった」と喜び、「身が軽いのは美徳です」と俊介を称えた。  腰軽く動くことは、現代の仕事人にとっても美徳だ。まず「仕事が速い」「頼りになる」と周囲に印象づけられる。仮に、頼んだ張本人の態度がイマイチだとしても、きちんと成果を上げれば、必ず誰かの目に留まる。”身の軽さ”は人脈や評判、好印象といった有形無形のプラスを呼び込むのだ。

「はだしに慣れよ」

 武家で働き始めた俊介は仕事中、素足で過ごすよう言われる。そう命じた来原良蔵も常に素足。いざというとき、「草履がないから戦えません」と言い出す”弱兵”にならないよう、「はだしに慣れよ」と言うのだ。  仕事における”いざ本番”は、ある日突然訪れる。  そんなとき、守備良く動けるかどうかは日頃の備え次第。仕事脳のスイッチは常に完全オフにはしない。仕事にも人生にも、オン・オフはない。その覚悟があれば、いかなるときも迷わず一歩を踏み出せる。

「組織というのは海とおなじです。むりに泳いだら波にのまれる」

 松下村塾の先輩塾生・桂小五郎に憧れの念を抱く俊介。自分も江戸に行き、国事のために奔走したいと、吉田松陰に直訴する。だが、松蔭はそんな俊介を性急だと諌める。組織を海に例え、「むりに泳いだら波にのまれる」と諭す。  組織を海に例えるのは、言いえて妙だ。自分が今、どこにいて、どの方角に向かっているのか。油断すれば、簡単に見失ってしまう。 「組織という”大海原”をどの方向に向かって、どう泳ぐのか」を考え続ければ、利用しようと近づく輩に煩わされる機会はおのずと減っていく。  利用しようと近づく人がいるのは、一定以上の能力があるとみなされたのに他ならない。嘆くどころか、喜ばしいことだ。むしろ、用心すべきは自分が”利用する側”に認定されることだ。「今度奢るよ」の約束は年内に片付けたい。 <文/島影真奈美> ―【仕事に効く時代小説】『シュンスケ!』(門井慶喜/角川書店)― <プロフィール> しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
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