ホテル不足の救世主? 増える宿泊型コワーキングスペース

サラリーマン 円安などの影響で、日本を訪れる外国人観光客が急増しているのはご存じの通り。事実、日本政府観光局(JNTO)が発表する毎月の「訪日外客数」を見ても2014年から2015年にかけて、その数は大きく増えている。消費増税で内需が停滞するなか、インバウンド需要は国内経済にとって、無視できないものになりつつある。  一方、サービス産業の構造が変化した影響で、ホテルなど宿泊施設の稼働率も上昇している。宿泊料金も高騰し、予約も取りづらくなった。東京と地方を行き来するビジネスパーソンにとっては大きな打撃だ。  もっとも、「必要は発明の母」とはよく言ったもので、既存の宿泊施設の予約が取りづらくなっている一方、宿泊可能な新施設も増えている。たとえばコワーキングスペースなどもそのひとつだ。コワーキングスペースをざっくり説明すれば、利用者がシェアする共用オフィスなのだが、仕事場として利用できる上に宿泊可能な施設が登場している。
訪日外客数

訪日外客数(総数)出典:日本政府観光局(JNTO)

●東京ヒュッテ(東京・押上)  東京スカイツリーからすぐ近くにある東京ヒュッテは、コワーキングスペースとしての機能も備えるゲストハウス。一般客も迎えてのカフェバーとなるラウンジスペースに無線LAN、AC電源、その他コピー・FAX・スキャナ機能を備えた複合機なども設置している。 「ここは、フレキシブルに人が交差する、人間交差点のような場所を目指して作りました。なので、コワーキングスペースの利用は、月額会員などは募らず、都度利用のドロップインのみ。ゲストハウス宿泊者は、無料で利用できます。ゲストハウスがベースなので、お客さん同士、日本人だけでなく外国人とコミュニケーションをとるスタイルが根づいています」(東京ヒュッテ・広報)  もともとは外国人ターゲットで開業したゲストハウスだが、最近では日本人のゲストも増えてきているという。 「地方から出張で訪れたビジネスマンのほか、東京住まいのフリーランス、大学生やインターンも多いですね。また東京の多摩地区にお住まいの方が、翌日、朝早くから下町で仕事があるときの前泊に利用するケースも」(同)  コワーキング機能のみの利用は、料金にワンドリンクつき。ゲストハウス用のフリードリンクには含まれない、淹れたてコーヒーも選ぶことができる。フードはシフォンケーキなどデザートのみだが、外へ食事や買い物に出ることも可能だ。「仕事がはかどる」と、コワーキングスペースにのみ通う常連客もいるという。 ▼東京ヒュッテ http://www.tokyohutte.co.jp/ 住所:東京都墨田区業平4-18-16 電話番号:03-5637-7628 宿泊(1泊):男女混合ドミトリー ~3200円/女性専用ドミトリー 3500円/和室 7500円 コワーキングスペース:ドロップイン2H 600円/1日 1100円 ●ライズアップケヤ(福岡県糸島市)  福岡市内から車で1時間。福岡県の最西端に位置する糸島市には、この数年で既存の建築物をいかしたリノベーション店舗が増えつつある。  コワーキングスペース、イベントスペース、撮影スタジオを組み合わせた「ライズアップケヤ」も、そうした新業態店のひとつ。初代の移住者がスーパーを住居に改築し、2代目の移住者はカフェに改装。そして3代目の移住者である、福岡移住計画の須賀大介氏らたちが宿泊もできるコワーキングスペースという要素を加えた。 「コワーキングスペースだけではなく、カフェや厨房機能、大きなプロジェクター、DJブースなどビジネス用途としても幅広い性質のイベントが開催できるスペースを施設内に備えています。最近では3組目のカップルがウェディングパーティーを開催するなど、結婚式の会場としても注目されています」(須賀大介氏)  滞在客の活動サポートのため、施設内には最大10名の宿泊が可能なスペースを提供している。宿泊料金は地元の民宿の素泊まりと同額で、好きなほうに滞在すればいい。 「宿泊は、現在Airbnb経由で提供しています。糸島市周辺の民宿とも連携プログラムを組んでおり、そちらもあわせてご案内しています」(同)  ライズアップケヤに宿泊せず、周辺施設に泊まる人も、コワーキングスペースは自由に利用できる。 「併設しているイベントスペースも利用した、トーク&交流会などのイベントも増えてきました。ベンチャーの方などは5 ~ 10人くらいのグループで2階ロフトスペースを貸しきり、合宿状態で会議を行うなど、普段とは違った環境でさまざまな企業活動が行われています」(同)  昼休みに釣りに行ったり、徒歩10分の軽登山を楽しめるロケーションに加えて、ドロップインでも利用ができるとあって「都会から離れて作業したいときに最適」と、主にIT関係のビジネスパーソンが訪れているという。 ▼ライズアップケヤ http://itoshima-lifedesign.com/ 住所:福岡県糸島市志摩芥屋1037-1 宿泊:料金はシーズンで異なるので、要お問い合わせ。 コワーキングスペース:月額4,500円 (駐車場は月+500円)/1日1,500円 ●KAEDE GUEST HOUSE(京都・四条烏丸)  日本のみならず、世界中から観光客が押し寄せる観光都市・京都に、この冬、新たな宿泊機能付きコワーキングスペースがオープンする。母体は祇園などで旅館「ぎおん畑中」「龍吟」や料亭「かみくら」を営む株式会社畑中という会社だ。 「6F建てのゲストハウスで、フロントがあるフロアの広いスペースを利用して、コワーキングスペースを開設します。最大で約20人、24時間利用可能な施設を考えています。コワーキングスペースの利用者もシャワーやゲストハウスでの宿泊、レンタサイクルが利用できます」(開業準備室担当の川野圭氏)  しかし、なぜゲストハウスにコワーキングスペースをつけることにしたのだろうか。 「僕自身もコワーキングスペースをよく使うのですが、夜になると閉まってしまうのが困りもので……。終電を逃しても泊まることができる、24時間営業のスペースがあったらいいなと、会社に提案しました」(同)  ゲストハウスのメインターゲットは、外国人観光客。コワーキング機能を加えることで、施設内の交流だけでなく、宿泊客との交流も後押しする意図があるという。 「コワーキングスペースとゲストハウスを一体化した運営をすることで客同士の間に交流が生まれ、通常のコワーキングスペースでは生まれないようなビジネスチャンスが広がるのではと考えています」(同)  京都の要衝でもある、四条烏丸、四条河原町からも近い好立地。”京”を感じる、和を重んじた空間になる予定だ。 ▼KAEDE GUEST HOUSE(1月上旬オープン予定) http://www.thehatanaka.co.jp/kaede/index.html 住所:京都府京都市下京区泉正寺町465-2(高倉高辻南側 / 仏光寺南側) 開発準備室:京都市中京区烏丸通蛸薬師南入る手洗水町647トキワビル4-B 電話番号:080-5359-9029(担当:川野) 宿泊:ドミトリー2,300円~/個室6,000円~ コワーキング:月会員9,000円~/1日1,600円/1時間250円~ ※変更になる可能性があるので、要問い合わせ。(kaede.kyoto@gmail.com)  さまざまな問題も含めて、五輪誘致に湧く東京だけではない。アジア向けの玄関である福岡、もはや世界に冠たる京都とインバウンド需要が高まるなか、宿泊機能を持つコワーキングスペースのニーズは高まるばかりだ。 <文/ミノシマタカコ
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