リポート「改憲1万人集会」 /語られなかった「9条改正」――シリーズ【草の根保守の蠢動 第24回】
2015.11.15
「国歌斉唱」と「リベラル揶揄」だけで支えられる一体感』
ゲストスピーカーの話は前章で触れたように児戯に等しいものばかりであったが、さすがに、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表・櫻井よしこの開会の辞は、よく練り込まれたものだった。
よく練り込まれていた、と言っても、その内容が高尚であったり、新機軸を打ち立ていてるわけではない。櫻井の挨拶はこの大会の「周囲」の文脈を極めて巧妙に織り込んでいる、という意味だ。
不思議なことに、日本会議の改憲運動部局でありこの大会の主催である「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、独自の憲法案を発表したことはない。彼らの言う「美しい日本の憲法」とはいかなるものか、一切、語られたことはないのだ。会の公式サイトに記載のある運動目標も、「憲法改正を求める」という文言しかない。彼らが目下積極的に展開している署名活動で持ちいられる署名用紙(PDF注意)にも「私は憲法改正に賛成します」と一言あるのみで、何をどう改正するのかはおろか、改正の方向性さえ記載されていない。つまり「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、これまで「憲法は改正されねばならない。なぜならば、改正されねばならないからだ」という、トートロジーとしてさえ成立しないようなことしか主張してこなかったのだ。
しかし、今回、櫻井の口から改正の方向性と若干具体的な内容が初めて語られた。
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大規模な自然災害に体しても、緊急事態条項さえない現行憲法では、命を守り通せません。家庭のあり方も含めて問題点があることは強調しなければなりません。
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3分弱の彼女の挨拶の中で、改正対象について具体性を持って言及された箇所は、ここだけである。もちろん、彼女は日本を取り巻く安全保障環境の変化をことさらに強調した。しかしそれを根拠に、9条について言及をしたわけではない。あくまで、彼女が具体的に名前を挙げたのは、
・緊急事態条項
・家族
の二点のみ。
この二点を9条より優先する姿勢には、見覚えがある。そう、この姿勢は、まさに連載17回で紹介した、「日本政策研究センター」の改憲プランそのものだ。櫻井は、物の見事に、あの改憲プラン通りの「改憲の方向性」を示したのことになる。
この大会が開催された11月10日、「改憲の具体的内容」として「緊急事態条項」を挙げた人物がもう一人だけいる。しかもその発言は、改憲大会で発せられたのではない。
改憲「緊急事態条項から」 首相、9条改正「必要」 閉会中審査(2015年11月10日 朝日新聞)
安倍晋三も10日午前(つまり大会の開催直前)に、衆院予算委員会で「緊急事態条項」を改憲の具体的項目としてあげているのだ。
安倍の発言も櫻井の発言も、「日本政策研究センター」の改憲プラン通りということになる。安倍はこの大会に寄せるビデオメッセージを大会に先立つ5日前に収録している。両者の間に何らかの協議があったことは明白だ。決して、偶然の一致とは言えまい。
次章、「生長の家原理主義者の代表と不自然な議員席」では、筆者がこれまで追求してきた深淵がまさしく壇上に現れていたその様子を克明に解説する。
<取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie) 撮影/我妻慶一 菅野完>
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2015.11.15
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