リポート「改憲1万人集会」 “動員”された1万人の観衆たち――シリーズ【草の根保守の蠢動 第23回】

 この大会に向けては、日本会議に所属各組織からの動員がかけられている。動員の実施は当然の話であって驚くべきことではない。だが、その整然たる様は目をみはるものがあった。  大量の観光バスが会場の目の前にある駐車場に次々と横付けされていく。中型バス23台 大型バス45台までカウントしたが、あまりにも大量かつ矢継ぎ早で、途中でカウントを諦めてしまった。注目すべきは、この大量のバスのほとんどが、12:45から13:30までの45分間に一気に到着したことだろう。約45分間で約70台のバスを誘導している計算になる。さらに、この大量のバスとバスから吐き出される高齢者の波を、バスとは別に到着し続ける駅からの徒歩参加者や、政治家たちのハイヤーの間を縫って、現場の誘導員が合理的かつスムーズに誘導していく。誘導員の圧倒的多数派はガードマンでもイベント会社の人物でもない。スーツを着た日本会議関係者だ。日本会議及びその周辺の人脈は、これまでたびたび武道館を会場に各種の「一万人大会」を開催してきた。その度にノウハウを蓄積してきたのだろう。実に慣れていて無駄がない。

圧倒的な宗教動員 

 バスから降りた人々や駅からの徒歩参加者は、それぞれ割り振られたゲートに吸い込まれていく。  設けられた入口は、AからEまでの5つ。Aゲートは、「日本会議」各支部から動員された人々と、報道関係者の受付。B,C,Eは団体受付。そしてDが一般参加者受付だ。  各種団体用に入口が分けられているものの、団体の徽章に引率される人の群れはない。かつて日本会議のイベントでは、仏所護念会や霊友会など所属団体の名前を大書した団体別受付を設けていた。だが今は、宗教団体の名前がどうしても目立ってしまうこの方式をやめたからだ (※1)。  唯一の例外は、神社関係団体と遺族会。  この2団体だけは、「老舗」扱いで、団体名明示での引率が許されている。彼らに割り当てられたのはAゲート。正面玄関であり、日本会議地方会員や報道関係者が利用する同じゲートだ。つまり彼らは「見せていい」団体なのだ 。(※2)  だが少し裏手に回ったB・Cゲートは様相が違う。

崇教真光のバッジを付けた参加者

 B・Cゲートは、正面玄関以上の混雑ぶりだった。皆、バスから整然と歩いてくる。だが団体名の書かれた旗やノボリはない。  皆、同じバッジをつけている。よく見ると、崇教真光のバッジだ。写真の人物が手にする整理券に「C」と書かれている。彼らはこのようにあらかじめ整理券によって入り口を振り分けられているのだ。この方式であれば、団体ごとの動員数も把握しやすい。また、欠席率も即座に計算できるだろう。どの陣営の集会でもよく用いられる手法ながら、ここまで洗練されていることに改めて舌を巻いた。  しかし、あまりにも真光のバッジをつけた人が多い。Cゲートは常に混雑していた。

一般受付から入る人は他のゲートに比べ非常に少なかった

 大会終了後に真光のバッチをつけた人にさりげなく尋ねたところ「真光は今回、3000人」と動員数をあっさり教えてくれた。真光以外の教団に割り当てられたゲートも同じような混雑ぶりだったので、神社本庁を除く、各種宗教団体からの動員が参加者の多数を占めていたのだろうと推測される。  一方で、一般参加者用のゲートは実に閑散としていた。  受付係員はいるものの、参加者はほとんど来ない。10分ほど観察したが、その間にやってきた参加者はわずか1名。先に触れた、真光を始めとする各種教団の動員数と比べたら、もはや「誤差の範囲」と言っていいレベルだろう。

圧力団体の理想形

 一般参加者がほぼいないことは笑うべきことではない。ゲートの数は5つ。そのうち3つが各種教団窓口。先ほどの真光の動員数の証言に基づきそれぞれ3000人と計算すればこれで9000人。比較的スムーズに流れたAゲートを千数百人前後とすれば、一般参加者がほぼいなくとも、1万人を若干超える計算になる。  そして、果たして、大会の中で発表された参加者数は、11,300人。  つまり、今回の日本会議による「今こそ憲法改正を!武道館一万人大会」は、決して、「一万人しか来なかった」集会とは言えないのだ。「一万人集める」と公言し、その数をきっちり公言通りに叩き出した集会と言うべきなのだ。  宗教団体のイベントにおける1万人は何ら驚くに値しない。その数字が事前の計算通りであることも不思議ではない。しかし、日本会議の場合は、これを利害の大幅に異なる複数の宗教団体や各種団体を束ねる形で実現せねばならない。単一教団のマネジメントとは次元が違う。  だが、日本会議は、公言通り正確な数字を叩き出した。なんたるマネジメント能力!  容易に想像つくように、この能力は、選挙に於いても発揮される。  選挙に際して公言した通りの数字を確実に出す。  これほど、政治家にとって魅力的なこともあるまい。確固たる固定票は得体の知れぬ「時代の風」や「無党派」なるものよりよほど頼りになる。かつてこのような圧力団体は、陣営の左右かかわらず、あちこちにあった。しかしそれらの団体は高齢化と長引く不況も相まってほぼ姿を消した。今の日本でこれほど細密な動員を未だに実施できる団体は、日本会議ぐらいのものだろう。  あの大会に出席した国会議員たちは、改憲どうのこうのという話の内容より、この計数管理能力にこそ魅力を感じたはずだ。また、政治家たるもの、そうあらねばならない。思想信条などではなく、この魅力こそが、「改憲」の道に政治家たちを動かす原動力なのだ。  大会の開催中、日本会議事務総長・日本青年協議会会長の椛島有三は、終始、満足そうな顔で観客席を見つめていた。  椛島は、きっと、宿願の達成を確信したはずだ。 ※1:上杉聡,2003,「日本における『宗教右翼』の台頭と『つくる会』『日本会議』」, 『季刊 戦争責任』39:44-56 ※2:この「神社本庁と遺族会だけは別扱い」な待遇は、「神社本庁本丸論」や「戦前のエスタブシュメントの子孫たち」といった日本会議界隈を観察しだしたものが初手で陥りやすい誤解を生じさせている <取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie) 撮影/我妻慶一 菅野完>
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