「平均年収263万円層の持ち家率82.4%」のカラクリとは?

持ち家 人生で一番大きな買い物といえば、間違いなく住宅の購入であろう。アベノミクス以降、低金利が続き、不動産販売も好調と聞く。この記事を読んでいる人のなかにも、持ち家の購入を考えている人がいるのではないだろうか?  実際、日本国民の持ち家所有率は、意外にも高い。平成24年の総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の持ち家率は81.4%。なかでも、世帯年収を5分割した一番下の階層(平均年収263万円)の持ち家率は82.4%で、前年と比べ2.5%も増えたことは、ちょっとした話題にもなった。  しかし「持ち家率の数字には裏があります」と小社、扶桑社新書より『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』を上梓した経済評論家の佐藤治彦氏は語る。「平均年収263万円層の持ち家率82.4%」のカラクリを探ってみた。

今、不動産は投資目的で売れている

「年収300万円でもマンションが買える!」  この調査結果を引き合いに、マンション購入を勧める不動産もあるようだが、持ち家率の数字には「“マイホーム購入者”とは書かれていません」と佐藤氏は言う。 「世帯年収が260万円の世帯の持ち家率が伸びた最大の要因は、マイホームをすでに持っている人たちが年金生活に入ったからです。ですから、その年収階層の人たちの数字が大きくなってしまっただけというのが実態なのです」  20〜30代の年収の低い世帯のなかで、住宅購入者が増えているわけではないのである。しかし、不動産業界は好調だという。なぜなのだろうか? これには、投資目的の購入、特に外国人投資家の動向が強く影響しているという。 「いま注目されているのが、中国の富裕層の動向です。中国は、政府の方針で中国人民元の為替相場が経済の実態よりも低い。それでも、これだけ積極的に日本の不動産を買ってくるのには理由があります。それは、中国国内の物件に比べ、日本の不動産が比較的安価だからです。為替政策が是正されて人民元が強くなれば、もっと積極的に購入するでしょう」 「長期のローンを組むことは、将来もらえるかわからないお金の使い道を決めてしまうということです。子どもが独立すれば家族構成も変わりますし、少子化により不動産市場に空き家が多数放出される可能性もある。老後のために、と家を買う人も多いでしょうが、慎重に考えていただきたいと思います」 「販売好調」と煽る不動産業界のニュースと「持ち家率82.4%」の言葉に踊らされると、痛い目に合う可能性があることをお忘れなく。<文/HBO編集部 協力/佐藤治彦> 【佐藤治彦】 経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。近著に『知識ゼロからの為替相場入門』(共著/幻冬社)、「普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」(扶桑社)など。
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