前編⇒
「日本会議とJCによる教育現場介入策略にハマったNHK」
JCによる自主憲法制定委員会のサイトはこの見た目
JCはかねてからその組織力と資金力を背景に、右派運動のなかにおいて重要かつユニークな役割を果たしてきたことはうっすらとは感じていた。副委員長氏の言う「平成18年に出された独自の憲法改正案」が2012年に改定されたことも承知している。しかし、今改めて、「憲法改正のための1000万人署名」運動の現場運動員として「日本会議」の機関紙に登場していることは重要な意味を持つだろう。もはや、「改憲に向けた運動で、日本会議とJCは一心同体」「日本会議は、JCを運動リソースの一つとしてカウントしている」と言ってもいいだろう。
しかし、さらに驚くようなことがこの先に書かれている。
インタビュアーからの「現在の取り組みは?」との質問に、「全国一斉参加型憲法事業」「憲法セミナー」などをの取り組みを紹介した後
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「学校に呼ばれて授業したりすることもやっています」
「たとえばこの10月上旬には、埼玉県のある中学3年生9クラス約300人の生徒を対象に、徳育・憲法・領土・選挙についての出前授業を開催させて頂きました」
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と答えているのだ。
なんということだろう。もともと「自主憲法制定委員会」と名乗っていた団体が、中学校で出前授業を行っているというのだ。
選挙権が18歳に引き下げられたことを受け、「高校における教育の政治中立性」が厳しく問われている中、高校ですらない義務教育の現場たる中学校で「自主憲法制定」を謳う人々が出前事業を行っている。一瞬、意味を理解しかねるほどの衝撃を受けた。
この「憲法論議推進委員会」は
Facebookページを持っている。その内容を確認したところ、さらに、驚くべき事実が記載されていた。
すでに削除されてしまったポストだが
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「この取り組み(引用者注:中学への出前授業のこと)が評価されたのか、本日は急遽NHKの取材が入ることになり、注目度も上がっています。
皆様、ぜひ地元の中学生へいかがでしょうか?」
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『日本の息吹』で誇らしげに語られるような授業をNHKが放送する?
呆然となりながらも、「これはたいへんなことが起きている」と直感した私はすぐに相談できる方々に電話とメールで話をし、NHKにも真偽を確かめるべく電話を入れた。
しかしNHKでは「これから放送する分についてはお返事できない」というのがマニュアルのようで、「担当者が見て返事をする場合があるので」とメールでの問い合わせを勧められた。やむなくメールで問い合わせをしたものの、残念ながら10月31日現在まだその回答は来ていない。
8年前にも起きていたJCによる「政治的」な学校への介入
JCは対外的には「政治的中立」を謳っている。世間の認知も「経営者団体」というものだろう。したがって、実際の放送は極めて普通の「出前授業」のレポートとして映し出される可能性が高い。
「主権者教育」としての切り口で、おそらくは「徳育・憲法・領土・選挙」のうち、「選挙」の場面が使われるのだろう。
「徳育、憲法、領土」で物議を醸すような放送はせず、「へー、地元の若手経営者がこんなことをしているのかー」という印象が視聴者に残ればよいのだ。自分たちの活動が、NHKで放映され社会的な認知を獲得できればよいのだ。
あとは翌日以降の「全国展開」、全国のJCのネットワークを使っての学校周り、「営業活動」となるわけだ。
「ニュースウオッチ9」であれば、校長・教頭クラスの教員が視聴している可能性も高い。そこに「昨日のニュースウオッチ9、見ましたか?」と地元のJCのメンバーがやってくる。果たして、JCの誘いをを断れる校長はいるだろうか。
実は、8年前にJCは今回の件とよく似た問題を引き起こしている。
2007年6月8日朝日新聞朝刊がこの「JCの前科」を詳細に報道している
「日本青年会議所(日本JC、会員約4万人)が制作し、
戦後の「贖罪意識」を批判的に取り上げたアニメDVDを使った上映会が各地で進められ、中学校1校で授業として実施されていたことが分かった」
「同校の校長によると、昨年12月
地元のJCから授業について強い要望があり、事前にアニメを見て「内容は一面的なところがあって多少違和感を持ったが、
地元のJCは大切な存在だ」として受け入れたという。今では、アジアに与えた被害が扱われいなかったアニメを授業でそのまま流したことについて「深く反省している」とし…(略)」(太字は引用者)
どうだろう。
各地の学校長にとって、地元の中小企業の経営者団体であるJCは、決して無視できない存在であることが見て取れる。だからこそ、内容に「多少違和感を持った」にもかかわらず、「地元のJCは大切な存在」だから、JC作成のアニメDVDを授業で使ってしまったのだ。
とすれば、もし仮にJCが削除した投稿で言っていたように、彼らの予定通りNHKが11月3日に「憲法授業」を放映したとしたら、翌日から、学校現場で何が起こるか、容易に想像ができるのではないだろうか。
しかし不思議なのは、NHKの態度である。少し調べれば、このJCの「憲法論議推進委員会」なる組織が、元来は「自主憲法制定」を目標としていたことも、JCが教育現場に介入し問題を起こしていたことも、そして今や、日本会議と一体となって、改憲運動に取り組んでいることも、すぐ分かるはずだ。
NHKの夜9時のニュースといえば、日本を代表するニュース番組だ。そのニュース番組の制作側がこれらの「調べればすぐに分かる事実」に気づかなかったのだろうか? あるいは、納得ずくでこのような報道を計画しているのだろうか? 前者であれば「圧倒的な調査能力不足」であり、後者であれば「政治的中立の完全放棄」であり、いずれにせよ問題と言わざるをえない。
すでにJCはNHKの放送を控え着々と新しいサイト
「憲法〜みんなで描こうこの国を〜」を整備中だ。冒頭に挙げた「自主憲法制定委員会」のサイトと比べると、その「本心」を隠して「政治的中立」を装っていることがわかる。JCがNHKの放映を足がかりにして、各地の学校に「営業」をかけ、この新しいサイトをプレゼン材料として、「憲法論議の授業」を売り込む。もちろん、物議をかもす「徳育、憲法、領土」などの話は、営業トークでは控えられるだろう。しかし、蓋を開けてみると、未だ義務教育の過程にある中学生に向け、「自主憲法制定」に向けた授業が繰り広げられる。。。
そんな悪夢のような現実が生まれつつある。この動き、決して看過して良いものではないだろう。
<取材・文/赤菱耕平>