ライバル店の入居先をビルごと買収。不動産王になりつつあるZARA創業者アマンシオ・オルテガ

マドリードのビジネス街AZCAに屹立する高層ビル「トッレ・ピカソ」もアマンシオ・オルテガのものだ(photo by cabezadeturco on flickr<CC BY-SA 2.0>)

 本サイトでもたびたび取り上げているZARAの創業者アマンシオ・オルテガが、10月23日の数時間あまり世界一の富豪となった。  ヨーロッパとアメリカの時差が埋まりニューヨークの株式市場が開くと、再びビル・ゲイツが富豪No.1のポジションを取り戻したものの、スペインでは経済産業部門で世界に誇れるものは唯一ZARAだけであるが故に、その日のスペインの大半のメディアは「アマンシオ・オルテガが世界富豪No.1になった」というニュースが大きく取り上げられた。  スペイン紙「Publico」によると、「Forbes」のデータではその日のオルテガが富豪No.1となった時の〈資産総額は798億ドル(9兆6,558億円)と評価され、ビル・ゲイツの781億ドル(9兆4,500億円)を追い越した〉のだという。

不動産事業を急速に拡大させるアマンシオ・オルテガ

 オルテガは、御存知の通りZARAを含めたアパレルとホームファーニシングのブランド企業を8つもち、それをひとつのホールティングとしている。それがインディテックス(INDITEX)である。オルテガはインディテックスの59.3%の株主なのだ。この8社の株価に加えて、最近オルテガの資産が増えたのにはもう一つの理由がある。  それは、最近オルテガが始めた不動産事業である。スペインはもちろんのこと、英国や米国で建物を買収して、その資産が彼の資産評価に加えられているのだ。  彼は不動産事業の展開のために「ポンテガデア(Pontegadea)」社を2002年に設立した。そして、ポンテガデア社はインディテックスが構えている一部店舗のオーナーでもあるのだ。インディテックスは〈2014-2015年(2014年2月1日-2015年1月31日)の会計年度の店舗の借家料として3,371万ユーロ(44億8,300万円)をオルテガ=ポンテガデアに支払った〉という。(参照:「Publico」紙 )  他にも、マドリードの高層ビル「トッレ・ピカソ」を2011年に4億ユーロ(532億円)〉で購入し、バルセロナでも旧バネスト銀行の本社があった建物を8000万ユーロ(106億円)で手に入れている。また、イギリスでは、ロンドンの資源メジャー、リオ・ティント社の本社屋を3億3500万ユーロ(445億円)で買収したほか(参照:「Economia」紙)、ニューヨークでも一等地にある複数の商業ビルを手に入れている。  そして、このオルテガ=ポンテガデア社の不動産買収戦略で面白いエピソードがある。

ライバル店の入居するビルを、ビルごと買収

 同社は特に英国に力を入れているようだが、その中でも注目すべきは、今年4月に〈ロンドンのオックスフォード通りにある1920年に建てられたデボンシャー公爵邸だった建物を現在の所有者ランド・セキュリティー&フログモアー社から4億ポンド(740億円)で購入した〉ことだ。  実は、その建物の中に2万平方メートルの店を構えているのが、スペインで現在ZARAの牙城を脅かしているアイルランドのファスト・ファッション「PRIMARK」なのだ。  同じことはスペインでも起きている。10月にスペインのマドリードで、「PRIMARK」が1万2400平方メートルの店舗をオープンした1924年建立の由緒ある建物も今年4月にオルテガは買収しているのである。すなわち、「PRIMARK」がこの店舗の開設を決めて内装などをしていた時期にオルテガはこの建物を購入したことになる。オルテガがPRIMARKを意識しての戦略なのかは定かではないが、「PRIMARK」はまるでオルテガの手のひらの上で踊らされているかのようなことになってしまったようにも見える。(参照:「Economia」、「El Confidencial」)  今年のオルテガの所得はインディテックスの株主配当金などで9億6,100万ユーロ(1278億円)だという。  今、アマンシオ・オルテガは世界の不動産王としても飛躍しているのだ。 <文/白石和幸 photo by cabezadeturco on flickr(CC BY-SA 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会