建設費0円!消滅可能性都市・豊島区 新庁舎建設の奇跡
2015.10.26
“消滅可能性都市”という言葉をご存知だろうか? これは少子化の進行に伴う人口の減少により、存続が危ぶまれている自治体のことで、全国で896の自治体がこれに指定されている。そして、その消滅可能性都市に東京23区で唯一指定されてしまった区がある。それが、豊島区だ。
しかしこの豊島区、今年5月に新庁舎を「実質0円」で建てたとして、今、全国の自治体から注目を集めている。地方自治体の収入は、住民税に頼る部分が大きいはず。人口の減少が著しいはずの豊島区は、いかにして“0円”で新庁舎を建設できたのだろうか? この奇跡ともいえる大事を成し遂げた豊島区に、当時の状況と具体的な方法論について話を聞いてみた。
老朽化の進む庁舎と豊島公会堂の建て替え構想が俎上に上ったのは、昭和63年のこと。バブル景気真っ只中だったこともあり、460億円という莫大な建設費が組まれていたが、さほど問題にはならなかった。実際、平成2年の時点では豊島区の基金残高も354億円あり、このうち191億が庁舎建設のための基金であった。
しかし、ほどなくしてバブルは崩壊。財政は瞬く間に苦しくなり、平成8年に新庁舎建設案は一時凍結。平成11年には基金残高が53億円に減る一方、借入金は872億円にまで膨れ上がった。
この財政状況に危機感を感じた豊島区は、思い切った財政再建を実施。「学校や出張所、児童館の統廃合」に踏み切り、職員も「3000人から2000人」に減らしたという。その甲斐もあり、現在では区の財政状況は良好である。そして、ここで再び新庁舎建設案が持ち上がることになる。
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「とはいえ、再び新庁舎の検討が始まった平成15年頃はまだ多くの債務を抱え建設予算もありません。大規模修繕も考えましたが、もってせいぜい15年。これでは、また同じことの繰り返しです。そこで思いついたのが、廃統合により余った学校の敷地に、再開発事業として新庁舎を建設することだったんです。」
再開発事業とは、区の土地だけでなく民間の土地等の権利者と共同で組合を設立して行う事業で、国等の補助金も共同化や周辺道路や広場等の費用として支出される。区が所有していた土地の権利を新しい建物の一部に無償で変換することはできるが、それでは区が必要とする庁舎面積の約4割にしかならなかったという。
「そこで、旧庁舎の土地を、定期借地権付きで貸し出すことにしました。この借地収入で、新庁舎の建設費が捻出できたんです。」
幸運なことに、新庁舎建設地に隣接して幹線道路の環状5の1号線が整備途中で、区画整理がなされないままで狭い道路が多い密集市街地に良好な再開発事業の計画が可能となった。再開発以前の区の旧学校等の資産評価は約35億円であったがこの再開発事業により資産価値がアップし約85億円分の庁舎の床を取得できたという。
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豊島区の財政危機とその後の財政再建の取り組みにより、豊島区新庁舎“0円建設”の奇跡をもたらしたわけだが、豊島区は“消滅可能性都市”に指定された人口減少問題への対策にも抜かりがない。
「たしかに、豊島区は単身者の住民が多い都市です。しかし、平成16年に施行したワンルームマンション税導入の効果もあり、ファミリータイプの住居が増え人口も増加し28万人を突破しました。最近は子供の数も増えています。また、学校跡地を利用した施設は新庁舎だけでなく、特別養護老人ホームなどの高齢者施設や保育園などを民間と協力して整備しています」
お役所的発想に偏らず、民間企業を活用することにより、すべてがうまく回っているようだ。この成功例に学ぼうと、今まで国内外130を超える団体が視察に訪れているという。昨年話題をさらった“消滅可能性都市”のレッテル、もうそろそろ剥がしてあげてもいいのでは?<文・写真/HBO編集部>
マイナス819億円の赤字財政からの復活劇
さまざまなアイデアから捻出された新庁舎建設の財源
消滅可能性都市を脱した豊島区の現在
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