ついにGoogleが参戦。群雄割拠の定額制音楽配信サービス、どれを選ぶべき?
2015.10.24
9月3日、Googleが『Google Play Music』をスタートした。月額980円を支払うことで対象の楽曲が聴き放題となる、定額制の音楽配信サービスだ。同種のサービスは群雄割拠の状態であり、Appleが7月に開始した『Apple Music』をはじめ、日本発のサービスも生まれている。代表的な5つの定額制音楽配信サービスについて、その特徴をまとめた。
Googleが提供する「Google Play Music」。さすがネット界の巨人とも言える企業だけあり、曲数もクラウドサービスも規模の大きさが目を引く。ラインナップする曲数は3,500万曲以上あり、ソニー・ミュージック・エンターテイメントやユニバーサルミュージックなど国内外200レーベルが参加。邦楽の充実度も高い。
さらに、クラウドサービス「Google Play ライブラリ」を利用することができ、ユーザがすでに持っているデジタル音源を最大5万曲までアップロードすることができる。外出先でも、家と同じライブラリから曲を聴けるわけだ。5万曲といえば、CDアルバム1枚につき10曲としても5,000枚もの量になる。部屋にあるCDラックと相談してみてほしい。
ユーザの好みを学習して自動的に曲をおすすめするレコメンド機能や、スマートフォン上に曲をダウンロードして、圏外でも楽曲が楽しめるオフライン再生機能など、他の音楽配信サービスが備える機能も一通りある。さすがGoogle。そのサービスに死角なし!
Appleが提供する『Apple Music』のラインナップは3,000万曲以上。Googleよりやや少ないし、一部の主要な国内レーベルが参加していない物足りなさもある。それを補うのが、随所に加えられた「人の手」だ。
各ジャンルに精通したプロたちを編集に配置しており、プレイリストやレコメンド機能にその情報力を活かしている。例えば、アーティストが影響を受けた音楽や、シーンを代表する楽曲、バンドメンバーの移籍までも考慮してプレイリストが作られているのだ。つまり、自分の好みに合う楽曲が「発掘」されやすい。
また、ラジオ「Beats1」ではDJによる24時間の生放送を流している。ロンドン・ニューヨーク・サンフランシスコの3局をリレーしているため放送は英語だが、聴き流すだけで最新の音楽シーンに触れることができる。ここにも人の手がかけられている。
学生時代、好きな曲を並べてオリジナルのプレイリストを作ったことがある人もいるだろう(カセットかCDかMDかで世代が分かれるが)。
サイバーエージェントとエイベックスが立ち上げた、日本発の定額制音楽配信サービス『AWA』。“ソーシャルネットワーク色”が強いのが特徴だ。登録ユーザはプレイリストを作成して、AWA内で公開することができる。世界中に自分のセレクトしたセットリストを聴いてもらうことができるわけだ。
また、アーティストが自身の曲をプレイリストにして公開したり、アイドルなど芸能人が作成したプレイリストが並んだりしているのも特徴のひとつ。さながら“音楽版Instagram”といったところである。
気になる女の子から、LINEで西野カナの「好き」が届く。この夏に放送された『LINE Music』のCMである。邦楽を中心に200万曲以上をそろえる『LINE Music』の最大の特徴は、もちろん「LINE」との連携だ。
LINE Musicから楽曲をLINEに「シェア」すると、トーク画面にスタンプのように楽曲が投稿される。楽曲をタップすればその場で30秒ほどの試聴が可能。「これ聴いてみて!」と友だちにオススメすることもできるし、CMのように今の気持ちを曲で伝えることもできる。音楽をコミュニケーションのツールとして扱えるのが、他のサービスと異なるところだ。
また、LINE Musicは今回取り上げたサービスの中で唯一「学割」のプランがあり、20時間の制限がある月額500円のプランなど、低めの価格帯を用意。LINEをよく利用する若年層をターゲットにしていることがうかがえる。
定額で音楽が聴き放題、といえば「有線放送」を忘れてはならない。聴き放題サービスの元祖とも言える有線放送も、『スマホでUSEN』としてネット上でサービスを行っている。
アーティストや曲を選んで聴くのではなく、通常の有線放送と同様に「チャンネル」を流し聞きするスタイル。1,000以上のチャンネルが用意されており、邦楽や洋楽はもちろん、演歌、民謡、イージーリスニング、語学学習など、他のサービスでは類を見ないユニークなラインナップが並ぶ。
オフィスや家での作業にBGMが欲しい、といった、有線放送に求められるニーズを継承したサービスと言えるだろう。暖炉の音やカエルの鳴き声、東大寺の鐘といった環境音まで用意されているのも、有線放送ならではだ。
では音楽が聴き放題となる定額制音楽配信サービスに、利用時の注意点はあるだろうか。ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。
「音楽配信サービスは音楽をその都度ダウンロードしているため、スマホの4G回線で聴いていると通信量の制限に達してしまう可能性があります。Wi-Fiであれば通信量は増えないので、自宅のWi-Fi環境や各キャリアが街中などに設置する、Wi-Fiスポットを利用するといいでしょう。また、オフライン再生機能を利用して、あらかじめWi-Fi環境で曲をスマホにダウンロードしておけば、野外でも通信量を気にせずに済みます」
また、定額制音楽配信サービスは登録後に無料で使える期間が用意されている。ここにも注意が必要なポイントがある。
「サービスによっては、無料期間の終了後、自動的に有料に切り替わってしまうものもあります。お試しで使っていたはずが、意図せず課金されてしまった、というケースも発生しています。契約の自動更新について設定を確認し、無料期間が終了する時期を把握しておいたほうがいいでしょう」
三上氏によると、定額制音楽配信サービスは世界的に見ても飽和状態にあるそうだ。
「ニーズがあるのはわかりますが、雨後の筍のようにサービスが始まっているので、これから淘汰が起こるのではないでしょうか。高音質の配信を始めたフランスの『Deezer』のように、いかに音楽配信に付加価値をつけるかが今後の焦点になると思います」
音楽配信サービスが飽和状態になれば、当然音楽を提供する側にも影響がある。音楽市場にとって、音楽配信サービスはどのように受け取られているのだろうか。
「実はここ数年、ネットの音楽販売市場は下り坂を迎えています。それゆえ、定額制音楽配信サービスの登場には音楽産業も期待を寄せているようです。ただ、まだユーザ数が十分ではなく、アーティストなど楽曲製作サイドに渡る収益は微々たるもの。音楽配信でアーティストが潤う、というより、まだ見ぬユーザに発見してもらう、というところに望みがありそうです。ラジオや有線放送で火がついた、といったヒットの仕方をする曲が、定額制音楽配信サービスで現れるかもしれません」(三上氏)
日本レコード協会の統計によれば、CDの売上は過去10年で半数程度に落ち込み、有料音楽配信もここ5年で売上が半減している。音楽を「所有」するビジネスモデルの先行きが見えないなか、「所有」の概念を覆す定額制音楽配信サービスに寄せられる期待も大きい。とはいえ、今はまだ各社のサービスが出揃った状態。これから更に熾烈なシェア争いが繰り広げられるだろう。<文/井上マサキ>
【三上 洋氏】
セキュリティや携帯電話・スマートフォンを専門とするITジャーナリスト。テレビ・ラジオ・雑誌などでの一般向け解説を多数手がける。共著に『IT時代の震災と核被害』。
3,500万曲が聴き放題『Google Play Music』
“人力”を活用する『Apple Music』
音楽版Instagram『AWA』
友だちとシェアする『LINE Music』
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