脱税対策に取り組むギリシャ。“師匠”はなんとドイツのショイブレ財務相

ギリシャのユーロ離脱を支持し、対立していたショイブレ財務相(photo by Metropolico.org <CC BY-SA2.0>)

 ユーログループから第3次支援金860億ユーロ(11兆6100億円)を受けることになったギリシャは、その見返りとして約束した構造改革を忠実に実行に移している。  今年1月の総選挙で勝利した時のユーログループの前に反逆児と映ったチプラス首相は、180度変身。今ではメルケル首相の忠実な「生徒」になっている。そして現在、ギリシャ政府が必死に取り組んでいるのが「脱税」の摘発だ。  脱税の摘発にチプラス政権が協力を求めた相手は、なんと、ギリシャへの支援金交渉で最後にはユーロ圏からの離脱を推めたドイツのショイブレ財務相だ。その事実を伝えたのは10月19日付のスペイン紙『ABC』。同紙によると、〈それを依頼したのはアレクシアディス財務副大臣だ〉という。彼は入閣する前までギリシャ労働組合員で、入閣しての担当は税金の徴収改善だ。〈「ショイブレ氏の協力が根本的に必要だ。政治ではお互いに異なった分野からの出身であるが、共通の目的をもっている。それは脱税と汚職との戦いだ」〉と同副大臣は述べて、ショイブレ氏に協力を仰いだ理由を説明した。更に、〈「ショイブレ財務相が資金の流出を防ぐ為に戦う方法は我々にとって理想的だ。彼から学べることを切望している」」と付け加えた。  更に同紙は、〈アレクシアディス財務副大臣の手元にはギリシャから資金を流出させたと思われる情報が各国から入って来る〉と報じ、それを食い止める手段の無いことを残念がっている同氏は〈IMFのラガルド専務理事から不法に外国へ資金を流出させたとされる2062人のギリシャ人苗字と思われるリストが同氏の手元に届くに及んで、「これは自国の恥だ」と強烈に感じた〉という。そして〈「2012年から彼らの名前は、掴んでいるリストに載っていた。しかし、その誰ひとりにも調査をしていないのだ。2013年は僅かに3人を調査、2014年は95人。そして今年は38人目の調査を開始したところだ」と答えたことを同紙は明らかにした。  そして〈2012年の当初、ドイツから160人の税務官僚がボランティアとしてギリシャの税金の有効な徴収に協力したいと申し出ていた〉ことにも同紙は触れ、〈あの時点ではギリシャのユーログループとの交渉が難航していた為に、その協力をギリシャ政府は無碍に拒絶した〉という。しかし、〈ショイブレ財務相はその後も何度も協力する姿勢を表明していた〉ということも同紙は伝えた。それに対し、ギリシャの冷たい姿勢にショイブレ財務相もその後の交渉においてギリシャの要求を受け入れることに抵抗を示したことは知られている。しかし〈「もうそれは過去のこと。後ろは見ない」〉とアレクシアディア氏は述べて、ショイブレ財務相が彼と同じ姿勢で応えてくれることを信じているようだと同紙は報じた。

そもそも脱税への罪の意識が薄いギリシャ

 ギリシャ国民の間で税金を収めないことに対する罪の意識は非常に薄いという。シリザが1月に政権を握ってほぼひと月が経過した2月26日付のスペイン経済紙『LIBREMERCADO』が、ギリシャの1月の税収が予想されていた金額に比べ23%の歳入減となったことを報じた。  それはなぜか? その理由は、初めて誕生する左派系政権への国民の不安から資金が多量に国外に流出、或いは脱税でより多くのお金を身近かな場所に隠すという現象が急増したからだ。  また前出の『ABC』は、〈ギリシャでは毎年税金の徴収洩れが30億ユーロ(4050億円)ある〉という。しかも毎年税収などによって〈歳入されるべき150億-200億ユーロ(2兆250億円-2兆7000億円)が脱税、外国への資金流出、密貿易などの理由から未収入になっている〉という。それは〈ギリシャの全歳入金額の30-40%を占めている〉ほどだ。

税務署のコントロールが効かない地下経済が大きい

 今年7月には英電子紙『BBC Mundo』はギリシャの地下経済のことに触れている。地下経済とは物品の売買やサービスが金銭面で表面に出ない経済のことである。即ち、売買が現金で行なわれ、経理上において金銭が一切計上されない。その為に、税務署のコントロールも出来なくなるという市場のことである。  この地下経済が同紙によると、ギリシャでは〈GDPの27.5%を占めている〉(2009年統計値)という。ギリシャと同様にこの率の高い国にイタリアがある。〈イタリアは27%〉で、〈ドイツは16%そして英国は12.5%〉だという。因みにスペインは19%と言われている。  こうした背景を受けて、チプラス政権の構造改革案のひとつとして〈消費税で5万ユーロ(675万円)、所得申告で10万ユーロ(1350万円)の脱税行為を犯した場合、また15万ユーロ(2025万円)以上を不法に外国に送金した場合はそれぞれ禁固2年が言い渡されることになったという(参照:スペイン国営放送『rtve』)。  ギリシャのGDPは依然後退が続いている。失業率も25%あたりから下がる傾向はない。むしろ、上昇する可能性があるという。長期的に見てギリシャがユーロ圏に留まる確率は今も低い。 <文/白石和幸  photo by Metropolico.org on flickr (CC BY-SA2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会