不採算地方空港に存続の道はあるのか?

 LCCの撤退や国の総合交通政策の不備によって、地方空港は厳しい状況に陥っている。この状況をどうやったら改善できるのか。航空評論家の秀島一生氏は、次のように提案する。

写真はイメージです。

「国家の行政に対して、地方自治体などが異議を唱えることです。国の命令によって空港をつくったのに、LCCの撤退によって地方空港の存続が危ぶまれる恐れがある。このような行政活動に不服があると、行政不服審査や行政事件訴訟を申し立てるのです」  ただし最も優先されるべきなのは、空港の安全性の確保だ。今年7月26日に起きた調布市の小型飛行機墜落事故も、空港の安全性に欠けた機能が原因だと秀島氏は警鐘を鳴らす。 「飛行機が安全に着陸するためのシステムとして、ILS(計器着陸装置)という無線着陸援助装置があります」  ILSとは、着陸のために進入中の飛行機に対し、指向性のある電波を発射して滑走路への進入コースを指示するものだ。国土交通省によると、98ある国内の空港のうちILS設置空港は68しかない。事故を起こした調布飛行場のようにILSが設置されていない空港が存在するのだ。 「安全確保のために、すべての空港への設置義務づけや、国が一部補助をするなどの対策を考えるべき。国家財政が厳しいと言い訳をするかもしれませんが、国は空港税を徴収しているわけで、そうした補助すら出せないのであれば、そもそも空港など作るべきではないという話にすらなってしまう。ただ規制緩和をするだけではなく、徴収した税金で補助金を出すなどして安全性を保てるような機能を地方空港に持たせることです」  もうひとつの提案が、地方の活性化のために自らのよさをアピールすることである。国土交通省観光庁が実施している宿泊旅行統計調査によると、2015年6月時点での都道府県別外国人延べ宿泊者数は東京が最も多く、次いで大阪、京都、北海道、沖縄に集中している。98の空港があっても、観光客が集中するのは一部の空港だけだ。多くの地方空港に人を呼ぶためには、地方の魅力を発信するだけでなく、その空港を利用してもらえる方法を考える必要がある。  たとえば、北九州空港のエントランス入口の総合受付ではロボットが案内をしてくれる。北九州出身の漫画家、松本零士の作品「銀河鉄道999」に登場するヒロイン、メーテルが「ロボットガイド」として利用客の質問に受け答えをしている。海外でも人気の日本のアニメキャラに人工知能を搭載したロボットにして地方空港に配する。これは一例だが、YouTubeやFacebookなどへの投稿を通じて、“ネタ消費”に火がついた例は数えきれない。  さらに秀島氏は「採算が取れる範囲で、地方の住民たちが日常で使うローカルなエアラインを作って飛ばせばいい」とも言う。 「なにも大きなジャンボジェット機を飛ばす必要はありません。小型旅客機、たとえばこの10月下旬に県営名古屋空港で初飛行が予定されている日本製の小型旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)。運航費の削減や燃費のよさがメリットにあげられるこの飛行機をリースして運航する。70席しかない小さな飛行機なら50席も埋まれば搭乗率70%で採算が取れます。鉄道に人気のローカル線があるように、『あの場所に行けるのは、この飛行機だけ』というような“ローカル線”には需要がある。無理に拡大せず、採算の取れる範囲でやればいいのです」  その他にも、たとえば米子から福岡までの直行便を就航させる。米子から福岡まではJRで約7時間、高速バスで約10時間近くかかる。飛行機は直行便がなく、乗り継ぐとしても羽田空港経由となり、約4時間かかる。米子←→福岡の直行便があれば2時間で済む距離にもかかわらず、だ。  九州地方には2015年7月5日に「明治日本の産業革命遺産-製鉄・製鋼・造船・石炭産業」として世界遺産登録が決定した8つの地域のうち、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県と5つが集まっている。  福岡との直行便を就航したうえで、19世紀後半から20世紀初頭にかけて急速な産業化を成し遂げた九州地方の歴史的な場所をめぐる旅を、旅行会社がツアーを組むように地方空港や航空会社が自発的に提案する。米子の住民にとって九州へ行く便利な交通手段になるだけでなく、米子を経由して九州へ行こうという観光客も増えるのではないだろうか。  5年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック開催は、海外からの観光客を誘致するチャンス。ただ待つのではなく、地方自ら声をあげて積極的に行動することが生き残りには必要なことかもしれない。<取材・文/河本美和子>
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