急成長するアイルランド発ブランド「PRIMARK」。ZARAのお膝元に超大型店を出す

photo by a_marga(CC BY-SA 2.0)

 アイルランドはヨーロッパで最大規模の格安航空会社ライアン航空を誕生させた国だ。そのアイルランドで、アパレル業界では激安ブランドが誕生している。スペインで旋風を巻き起こしている『PRIMARK』(プライマーク)がそれだ。アイルランドから英国に進出したあと、次に進出する国としてドイツやイタリアを狙わずにスペインを選んだ(現在はドイツやオーストリア、アメリカにも進出)。その理由はアパレルの王者ZARAに挑戦を挑むためだったという。価格はZARAよりも安いのを信条としているという。  安価に提供出来る理由は広告媒体を一切使わない、常に大量買付けで中国、ベトナム、インド、モロッコなどでより安く提供するサプライ業者を探す。在庫は一切もたない。売れるまで価格は下げる。これらが、同社が激安価格を提供出来る基本ポリシーだ。  この『PRIMARK』が10月15日にマドリードを代表するメイン通りグランビアにマンモスショップをオープンした。スペインの経済紙『LIBREMERCADO』もこの新店舗を記事として取り上げて、〈店の広さは12,400m2、5階のフロアーに131のレジと91のフィッテイングルームを設けた。店員は573人で、その内の396人はこの新店舗の為に14,000人の応募者の中から採用したスタッフだ〉と報じた。  同紙によると、この新店舗のスペースは〈英国マンチェスターに構えている店舗に次ぐ2番目の大きさだ〉という。同社のスペインへの進出は2006年で、マドリードで1号店をオープンした。現在までスペイン全国で41店舗をもち、従業員は7400人を抱えるほどになっている。

郊外を固めた後に由緒あるビルに大型店を開く

 スペインでの『PRIMARK』はこれまで主要都市の郊外に位置するショッピングモールに店舗を構えて来た。スペイン紙『El Pais』によれば、〈新しいマンモスショップを開設するにあたり、狙ったのはマドリード市内の中心街に店舗を構えることであった〉とし、〈このプランはロンドンでもマンチェスターでも実現させている〉と指摘している。中心街に店を構える理由は市民のアクセスを容易にする為であり、買物をするのに車が必要ない。また公共の交通手段を利用して店まで行くことが出来るというメリットを考慮した上での戦略のようだ。  しかし、マドリードのような大都市の中心街で広いスペースの取れる物件を見つけることは非常に難しい。そして、ついに見つけたのが、前述『LIBREMERCADO』も報じているが、グランビア通りの32番に位置している1924年に8階のフロアーから成る「マドリード・パリ百貨店」がオープンした建物だった。当時の国王アルフォンソ13世(現国王フェリペ6世の曾祖父)も訪れたという由緒ある場所だが、その後、この建物の入居者には変遷があった。そして今、『PRIMARK』がこの建物に店舗を構えることを決めたのだ。消費者の口コミを販促に最大限利用する同社にとって、「中心街にあり、嘗ての総合デパートがあった記念すべき建物に店を構えた」ということは消費者を引き付けるのに充分な話題になるはずだ。  開店初日にはマヨルカ島から態々開店日を狙ってマドリードまで来たという夫婦は〈「買物の予算は500-1,000ユーロ(65000-130000円)だ。これで今年半年分の服を買うつもりだ」〉と前述『LIBREMERCADO』の取材に答えたという。また別の客は〈「公共の交通手段で来た。30-40ユーロ(3900-5200円)使う予定だ」〉と答えて気軽にアクセス出来ることを指摘した。また若い女性たちは「50ユーロ(8000円)使うことを考えている。これでセーター、冬服、ブーツなど買い揃えることが出来る」と言って安さを強調した。  スペイン電子紙『vozpopuli』によると、『PRIMARK』の〈2014年8月締めの年商は9億7200万ユーロ(1264億円)だったという。今年の売上はグランビアのマンモスショップも開設されて、10億ユーロ(1300億円)は容易に達成するはずだ〉と報じた。同社のヨーロッパでの店舗数は294店。前述『El Pais』によると、〈ひと月ほど前に米国に進出したばかり。イタリアにも店舗を開設する予定だ〉という。  同社の本国アイルランドでは『Irish Mirror』がこのマンモスショップの開店を取り上げて、〈この国におけるビジネスストラテジーの鍵を握る店だ。スペインの首都の歴史的な場所グランビア通りに構え、そこはビジネスと商業のハブである〉と報じた。またアイルランドの在スペイン大使デイビット・クーニー氏はオープニングセレモニーに参列し〈「この店の開設はアイルランドの誇りだ」〉と述べたことが上述『vozpopuli』に記載されている。  グランビア通りにはZARAが激安市場を対象に開設したショップ『lefties』があるが、『PRIMARK』の新店舗の近くに店を構えている。H&MそしてZARAもこの通りに店がある。これから更に熾烈な戦いが繰り返されることになる。 <文/白石和幸 photo by a_marga on flickr(CC BY-SA 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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