「香り」がアルコール市場を席巻。注目される新素材とは?

photo by Ben_Kerckx(CC0 PublicDomain)

 ワインはもとより、吟醸酒、大吟醸のブーム、さらに近年のクラフトビールなど、「香り」がアルコール市場で重要なキーファクターになっている。  酒文化研究所の山田聡昭第一研究室長は次のように語る。 「最近ではビールや日本酒でもワイングラスで楽しむ人が増えています。ワイングラスはもともとボウル型でグラスの中に香りが溜まる構造になっています。そのため、ワイングラスで飲むとグラスを傾けると同時に香りがふわっと立ち上がる。まさしく『香り』を楽しむ飲み方が浸透しているということです」  吟醸酒のメロンのようなフルーティな香り、クラフトビールのホップの香りなどにこだわると、自ずとそれらの「品種」にも目が向いていく。カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランにシャルドネなどのように、ワインの世界にはすでに5000種にも上るさまざまな品種のブドウがワインの香りや味のバリエーションを豊かにしているが、その流れはすでに日本酒などでも広がっており、山田錦を筆頭に五百万石や美山錦、出羽燦々と酒米の品種にまでこだわる愛好家が増えている。  そんな中、「香り」ブームは焼酎にも広がっているという。

芋焼酎の香りをさらにアップさせる素材

サツマイモを原料にする芋焼酎は香りが人気/photo by katorisi(CC BY 3.0)

「焼酎の中でも、もともと芋焼酎は香りに特徴がありました。そんな芋焼酎の中でもいま次第にシェアが拡大しているのが赤芋を原材料にした赤芋焼酎です」(山田氏)  もともと、芋焼酎で使われていたのは「コガネセンガン」(身が白い)という「白芋」だった。それを、通常は食用で使われる「ベニサツマ」「ナルトキントキ」といった身が赤い赤芋を原料にしたのが赤芋焼酎で、これらは柑橘系を思わせる甘い香りと味わいが特徴で、芋焼酎市場の中でもここ数年2桁増の成長を続けており、2014年1−12月で推計162.7億円に上るという(宝酒造調べ)。  そして、そんな「香る」焼酎のブームをさらに拡大しそうな新潮流が台頭しつつある。それが「赤芋」に次ぐプレミア原材料「紫芋」だ。すでにお菓子などのジャンルでは紫芋のチョコレート菓子やシェイクなどに加工され、人気を博している紫芋。その紫芋を原材料にした焼酎が注目されているのだ。すでに芋焼酎として知られた存在の「霧島」や「赤兎馬」も紫芋を売りにした製品をリリースし、人気を博している。  そんな中、100%紫芋を使用した紫芋焼酎「一刻者〈紫〉」を10月20日から期間限定で発売する宝酒造は紫芋焼酎についてこう語る。 「紫芋は作付面積も小さく、流通量が少ないためいままで焼酎の原材料にされていませんでした。しかし、赤芋焼酎が人気を集めていることからも、さらに香りが高い紫芋に注目が集まっており、専門店やネットではたびたび取り沙汰されています」

レア度高い紫芋焼酎はプレミア的

 紫芋焼酎のプレミア度は高く、「数量限定だったり、小規模のメーカーが限られた販売店に供給しているだけだったりする。本格焼酎の専門ネットショップでは、希少で売り切っておしまいの限定品ばかりなので、発売前から問い合わせが入り、数日で売り切れてしまうことが多い」(山田氏)というほどで、大手の参入は紫芋焼酎を楽しんでみたい一般層には願ってもないことだろう。 「赤芋焼酎の伸びを見ると、新しいもの好きな人がいち早く赤芋焼酎を買った後に一定の割合で赤芋焼酎にスイッチしていることがわかる。紫芋でもこの動きが出てくるであろうことは予想され、これは新しい市場ができる時の典型的なパターンだといえます」(同) 「香り」を楽しむという認識が広がったことで、クラフトビールや赤芋焼酎など今までにない新たな市場が開拓してきた昨今。紫芋焼酎や、この先登場するさらに新たな原材料などによって、アルコールの楽しみ方が多様化していくであろう。 <取材・文/HBO取材班 photo by Ben_Kerckx(CC0 PublicDomain) photo by katorisi(CC BY 3.0)>
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