LCC撤退により存続が危ぶまれる地方空港

 2014年の訪日外国人客数は過去最高の1340万人を記録。政府は5年後の東京オリンピック・パラリンピック開催時の2020年までに訪日外国人数を2000万人に増やす計画だ。
空港

写真はイメージです。

 こうしたインバウンド施策の追い風もあり、新千歳空港や関西国際空港、中部国際空港などの拠点空港や地方都市の空港がLCC向けのビル新設などを検討しているという。  すでにLCC専用ターミナルを持つ空港は3つある。1つめは2012年10月18日に日本初のLCC専用ターミナルを開業した那覇空港。2つめはLCC専用ターミナルとして2012年10月28日に第2ターミナルを開業した関西国際空港で、将来的にはこの第2ターミナルをLCC国内線専用とし、今年6月22日に起工した第3ターミナルをLCC国際線専用と役割を分担させる予定だ。そして3つめが今年4月15日に開業したばかりの成田国際空港の第3ターミナルである。  中部国際空港は2012年8月にアジア最大のLCCグループ、エアアジアとANAホールディングスが提携したエアアジア・ジャパンの拠点空港として、2014年夏にLCC専用ターミナル建設を予定していた。しかし、2013年6月の提携解消、同年10月の運航終了にともない、いったん建設を凍結。そのエアアジアが2014年7月に楽天などからの出資を受け、新生エア・ジャパンとして日本への再参入を決定した。2016年春、再び中部国際空港に国内線と国際線を同時就航させる計画を受け、LCC専用ターミナル建設を再検討している。  新千歳空港は、外国人観光客や旅客機の離着陸回数の急増により、空港の受け入れ能力が限界に達しているのが現状だ。そこで再整備の一環としてLCC用のターミナルビルの新設・拡張などを国土交通省が検討している。東京オリンピック・パラリンピックを契機に、国内の空港にLCCを誘致し、発着便を増やして空港を活性化させようというわけだ。  もっともすべての空港が、こうした積極的な姿勢を貫けるわけではない。たとえば2013年12月20日にスカイマークが「米子-成田」線など3路線10便を就航した鳥取の米子空港では、2014年4月1日には「米子-羽田」線など3路線が就航したが、その年の10月25日には、「米子-成田」便から撤退。そして今年8月、搭乗率に伸び悩んだ米子空港からの全路線撤退を余儀なくされた。2013年の米子乗り入れから。わずか1年8か月のことだった。  スカイマークは、ほかにもLCCにおける価格競争や円安の進行による燃料費の高騰、またエアバスA380の発注キャンセルによる違約金問題などによって経営破たんに陥った。民事再生手続き中のスカイマークに対し、ANAホールディングスとアメリカのデルタ航空が支援を名乗りでていたが、今年8月5日に東京地裁で行われた債権者集会で、ANAホールディングスの支援が正式に決まった。スカイマークは5年以内再上場をめざし、今月29日には新経営体制を発足させた。ANAホールディングスと共同運航契約を結び、来年の冬ダイヤのころから実施する予定だ。しかし、多額の損失を抱えた多くの債権者との交渉はこれからも続く。経営再建に向けて課題は山積みだ。  空港の活性化のためにLCCを誘致しても、なぜこのように撤退という結果になってしまうのか。航空評論家の秀島一生氏は「航空業界の名ばかりの規制緩和が原因」だと指摘する。 「日本航空は国際線と国内の幹線、全日空は国内の幹線と地方路線、そしてJAS(元東亜国内航空、1971年~2004年まで存在した)は地方路線と、国が国内の航空会社の住み分けを決め、それぞれの縄張りを荒らさないという協定をつくりました」  この参入規制の緩和が始まったのが1986年。以来、同一路線において複数の航空会社が運航する基準が大幅に緩和されるなかで、1998年にスカイマークやエアドゥ、2002年にはスカイネットアジア航空などの新規航空会社が次々に参入した。 「今まで幹線の権限を持っていたのは、日本航空や全日空。そこへ申請すればできたばかりの新しい航空会社が参入してもいいよという形で、あたかも自由競争のようにしたわけです」  規制緩和を決めた当初は、運賃の値下げやサービスの多様性が生まれることで、航空業界を活性化させたいという政府のねらいがあったが、規模の大きさによる違いは当然発生する。2015年4月の時点で日本航空の運航路線数は国際線52、国内線117あるのに対し、スカイマークは国内線21便のみ。規模が小さい分、コストカットで合理化を図ることになる。  たとえば冬に羽田-新千歳間を飛ぶ場合、新千歳では常に雪を振り落とす機器(機体除雪車)が必要だが、LCCは自前で持つ余裕がないため、日本航空や全日空が所持している機器を、彼らが使うのを待って使わせてもらうことになる。当然込み合っているときには機器がなかなか回ってこないので時間通りに離陸できずに遅延となる。  また整備に不備があった場合、大手航空会社なら代わりの飛行機を出すことが可能だが、LCCにはその余裕がない。故障があれば、そのまま欠航リスクにつながる。搭乗する際も、大手航空会社の駐機場はボーディングブリッジが使える便利なところにあるが、あとから参入したLCCの駐機場はバスで行かなければならないような遠いところにある。たとえLCCのほうが安いとわかっていても、乗客は高くても便利で安全な航空会社を利用することになり、自由競争といっても、力のあるほうが有利になってしまうのだ。  結果、新幹線など便利な公共交通を持たない地方の空港が利便性を求めてLCCを誘致しても、経営不振に陥ったLCCは地方の不採算路線から撤退してしまう。  規制緩和によって自由化されたとはいえ、就航→即撤退を繰り返していては利用者の利便性は向上せず、航空業界の多様性も生まれない。東京オリンピック・パラリンピック開催を目の前にして、いまだ日本における航空業界のグランドデザインは描かれていないのである。 <取材・文/河本美和子>
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