コスタリカに学ぶ「アメリカにNOと言える国」

 安保法制が通過し、日本はいよいよ米軍との軍事的一体化が加速する段階に入ってきた。政府・与党は「米軍との一体化こそ抑止力につながる」と一貫して主張している。だが、国際関係というものは、そんな単純なものではない。安保法制に不安を感じている世論との乖離も深まる一方だ。  そんな中、にわかに注目を浴びている国がある。“軍隊を持たない国”中米の小国コスタリカだ。コスタリカも対米関係に悩みつつ、国のかじ取りに難儀してきた。

対米政策の基礎は「NO」と言える国であること

 コスタリカに関するネット風評の中で、よく「軍隊を持たないといっても、結局は米軍に守られているのだろう」というものを散見する。が、国際関係はそんな一言で語れるほど単純ではない。  コスタリカが属する中米という地域は、地政学的に言って、米国の強力な政治的・経済的・軍事的影響から逃れられるような甘い場所ではない。しかも中米は米国からすると吹けば飛ぶような小国の集まりであり、日本ほど慎重さが求められる相手でもない。米国の影響力は、対日関係とは比べ物にならないほど強いのだ。  20世紀後半においては、特にその軍事的影響は強く、中南米大陸地域で米国の軍事的な直接的・間接的介入を受けなかった国はなかったほどだ。そんな中で、コスタリカは基本的に親米路線を堅持しつつも、「NO」と言うべきときにはしっかり「NO」をつきつける独自路線を歩んできた。そうできた理由は何なのか。  コスタリカは、自国が他国に軍事的に干渉しない代わりに、米軍からの干渉も遠ざけてきた。それは単に「平和主義」に基づく外交政策によるものだけではない。  公開された米国の秘密公的文書によると、1889年から平和裏に選挙で政権交代を続けてきたコスタリカを、米国は「民主主義の広告塔」と位置づけていた。そのため、米国自身もコスタリカに対する過度な干渉を避ける傾向があった。それを逆手にとれたからこそ、コスタリカは独自外交を展開する素地ができたのだ。  このように、外交には内政も深く関係してくる。現在日本が抱えている内政課題についても、それらを私たちがどう扱うかに米国も注目していて、それが外交にも影響を及ぼすだろう。

米国とも対等に渡り合う外交テクニック

ニカラグア反政府軍コントラ(1987年)

 1980年代、ニカラグアは内戦の時代に突入した。1979年に革命を起こしたサンディニスタ政権に対し、米CIAは反サンディニスタ軍(通称コントラ)を組織して、武力闘争をしかけたのだ。  米国はコスタリカにコントラ用の基地建設を認めるよう、圧力をかけてきた。ここでコスタリカは、隣国ニカラグアと米国との板挟みにあってしまう。  普通であれば、米国の圧力には抗しがたい。米国からの経済援助なしでは生き延びられないし、米国がその気になればいつでも軍事制圧されただろう。かといって米国に「YES」と言えば、陸続きのニカラグアから侵略される危険性もあった。どちらにしても、あっという間に自国は火の海だ。四方を海に守られている日本とは危険度がまるで違う。そこでコスタリカは、「非武装中立」という、ニカラグアにも米国にも「NO」を突きつける戦略を採ったのだ。

「非武装中立路線」への支持を楯に、米国の軍事的影響力に抗う

 当時米国は、中南米に対して最も強硬的と言われたレーガン政権期だった。コスタリカの「NO」を当初、レーガンは聞き入れなかった。そこでコスタリカは「NO」を唱える方向を変える。欧州先進各国を首脳が行脚し、コスタリカの非武装中立路線に対する支持をとりつけたのだ。それをあらためて米国に突きつけることで、レーガンを籠絡したのである。  米国がコスタリカの「NO」を飲んだことで、終わりの見えなかった中米紛争は終結に向けて動き出した。ニカラグアを含む中米3か国における武力紛争の和平交渉を、コスタリカはわずか1年で妥結まで持ち込んだのだ。1987年、その功績によって当時の同国大統領であるオスカル・アリアス・サンチェスがノーベル平和賞を受賞する。  こうしてコスタリカは「ニカラグアの国内紛争」と捉えられていた事象を「米国を巻き込んだ国際紛争」と位置づけ、さらに欧州各国まで巻き込んだ多角的外交に展開させた。これを「構造の転換」という。それによって自国も難を逃れ、他国の和平にも貢献し、米国とは友好関係を保ちながらも、その強い軍事的影響力に抗ってきたのだ。この歴史的過程は、単純に「米国に守られてきた」という風説を否定する。

日本も独自外交の実績と能力を活かせ

 日本とて、多角的独自外交を全くしてこなかったわけではない。米国と長年対立してきたイランと交渉して石油を確保してきたし、最近ではアフガニスタン政府とタリバンの和解交渉にも一役買っている。当然、米国に気をつかいながらも、友好関係を損なわずにそれらを成し遂げてきた。  コスタリカと同様に、日本にも独自外交の努力と実績がある。それを捨てることは、かえって地域の不安定化につながるだろう。  現在の日本は、近隣諸国との政治的関係が悪化する一方、対米関係は従属度を増している。それを「米国に守られている」と表現する人たちもいるが、客観的に見れば、東アジアの国際関係において軍事的要素が強まっているということだ。中国の軍事拡大主義に対して、日本まで米国一辺倒の軍事力強化でお付き合いしてしまえば、偶発的武力衝突の可能性は増すばかりだろう。米国との関係も損ねず、周辺諸国間の安全保障構築を目指すなら、今がまさに日本の知恵の見せ所なのだ。 <文/足立力也 写真/ウィキメディア・コモンズ> 【足立力也】 コスタリカ研究家、北九州大学非常勤講師。著書に『丸腰国家』(扶桑社新書)『平和ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)『緑の思想』(幻冬舎ルネッサンス)など。現在、『丸腰国家』キャンペーンを全国書店で開催中(八重洲ブックセンター、丸善ジュンク堂書店、戸田書店、平安堂、谷島屋、勝木書店、文教堂書店、明林堂書店、リブロ、明屋書店などの各店舗にて)。
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